人生の中で選択は数多くあるだろう。時には間違い、学び、導かれる時もあるでしょう。
最も難しいのはその選択が必ずしも正解に導いてくれるとは判らないことだ。といつだったか誰かに言われた気がしたのだ。

02.Up to you.

…ピッピッピッ
機械音だけが響く部屋で狗塚は重たい目を開けた。
ここは、どこだ。
ゆっくりと身体を起こし、狗塚はまわりを見渡す。白い部屋に横たわっていたベッドと狗塚の左腕につながり伸びている点滴用のガートル台。近くに立て掛けの鏡がある。
病院にしては殺風景だと狗塚は思い、ふと鏡を見たとき目を丸くした。
「ん?」
なぜだろう。少しだけ見た目が若返っているような…?
「あ、起きた!」
ドアが開き、ナース服姿の少女が部屋に入ってきた。
「君は…確かあのときメイド服を着ていた…」
「リリィと申します。以後お見知りおきを!」
リリィと名乗った少女はペコっと頭を下げると胸の谷間がちらっと見えてしまい、狗塚は横を向いた。
「身体の調子はどうですか?痛いところありません?」
「え、特に痛いところは…あれ痛くない?」
俺、あのとき左脇腹を抉られたはずだ。あの得体も知れない彼女〈モノ〉に。
服をめくり、傷があるであろう場所を見るが、傷口さえもなかった。
「わぁ、やっぱり傷口ふさがるの早いね~」
「…やっぱり?」
「吸血鬼の血は治癒力が強いから。良かった早く馴染んで…」
吸血鬼?早く馴染んで良かった…?
「やっとお目覚めかよ。狗塚郁」
セーラー服に軍服を羽織った少女が部屋に入ってきた。
「身体の調子は?違和感はないか?吐き気は?」
「…」
「…ほらこれ飲め」
少女は狗塚に輸血パックを差し出し、
「半分人間でも、血は飲めるだろ」
狗塚は差し出された輸血パックを振り払った。
そして少女の胸ぐらをつかむ。
「俺に…何をした?」

部屋はシンと静まり返っている。
狗塚は少女の胸ぐらを掴み、少女とにらみ合う。
「助けてって言ったから、瀕死のお前を救ってあげたんだけど?」
「俺は猿間さんを助けてくれって言ったんだ!俺なんて、生きたって死んだって良いんだよ!!」
「うざい」
少女は胸ぐらを掴んでいる狗塚の腕は引っ張り、身体の重心を使い背負い投げをした。
投げ出された狗塚は壁に激突する。その衝撃で点滴の針が外れ、刺さっていた箇所から血が流れ出した。しかしみるみる内に修復していく。
「悲劇のヒロインぶってんじゃねぇ!俺なんて生きたって死んだって良い?なら勝手に死ね」
「・・・ッ」
「その代わり、お前の身体に機械でも埋め込んで殺戮兵器にでもしてあげるよ」
「ってめぇ!!」
「はいはーい、ストップ。夕凪ちゃんもいじわるしないの!郁くんも落ち着いて」
リリィは二人の間に入り、仲裁を試みた。
「郁くん。生きたって死んだって良いなんて悲しいこと言わないでね。…彼に申し訳がたたないよ」
「…猿間さんは?」
「ごめんね、郁くんを助けたあと襲撃された場所に行ってみたんだけど…血のあとしかなくて…」
「…」
あのとき、俺が負傷してなかったら、背後の殺意に気づいていれば…猿間さんは死なずにすんだかもしれない。
「俺は、なんで生きてるんだ?あのとき血流しっぱだったし、出血多量で…」
「私の血を飲ませた」
壁に背もたれていた夕凪が口を開く。
「私の血を少量だがお前に飲ませた。お前の身体は半人間半吸血鬼状態になってるって訳だ」
「…教えてくれよ。アレは何だ?」
あの時、襲ってきた彼女(アレ)は自分が何者なのか分からない、ただ飢えていると言っていた。
「あれは、ただの狂った人食い化けモノよ。私たちは【リビングデッド】と呼んでる」
「リビングデッド?」
「あんたを襲ったのは無条件で人間を襲う【リビングデッド】」
「…ごめん。理解が追いつかない」
「狗塚郁。あんたは童顔の上脳ミソはニワトリ以下か?」
「…さっきから言わせておけば、童顔でも君よりは年上なのですが?」
「はい、はーい。にらみ合いしないの~!郁君簡単にまとめるとその化けモノを撃退してるのが私たちなのです!」
「…はぁ」
リリィは話を続ける。人間ではない化けモノを撃退を行っている組織、通称【ノアの箱舟】。
俺の身体は吸血鬼化した為副作用で実年齢より若返ったらしい。
先程から偉そうに腕組をしているセーラー服の彼女は「夕凪(ユナ)。吸血鬼よ」と名乗った。
「それでね、郁君の腕を見込んでお願いがあるの」
リリィは狗塚の手を取り、にこっと笑い
「【ノアの箱舟】に入ってほしいな!」
「…はい?」
狗塚は瞬きをする。彼女(リリィ)は突然何を言い出すのかと思った。
「残念なことばかり言うけど、狗塚郁は表ではあの時死んだことになってる。表のニュース観る?」
夕凪は手元にあるタブレットを操作し、画面に映像が流れる。
そこには、謎の女性の首なし死体と2人の刑事の遺品が見つかったとの内容だった。
『…優秀な部下を2人も失うことは、なんと言葉にすれば良いか分かりません』
警察の上層部の者が記者会見の席でそうつぶやく。記者達は質問を繰り返し、カメラのフラッシュが飛び交う。
『我々は引き続き残虐な犯人逮捕の為動くつもりです。市民の安全を第一に…』
狗塚はふと、画面の端に映る佐伯を見つけた。
「佐伯さん…」
猿間はよく佐伯とは今では立場は違うがお互いを信頼し合える親友だと話していた。
佐伯も同じなのだろう、親友を失った気持ちはきっと狗塚の倍だろう
これ以上、誰かを失った思いを1人でも増やしたくない…そう狗塚は思った。
「…俺にどこまでできるか分からないけど、手伝わせてくれないか」
「改めて、郁君【ノアの箱舟】へようこそ。歓迎致します!」
「そうと決まれば、ラヴィさんに会ってもらわないとね」
「呼んだ??」
声のした方向を向くと、変なウサギのかぶり物をした人物が立っていた。
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