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	<title>ノベル - 嘘吐きエデン</title>
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	<description>遠く ずっと遠く向こうで  泣いているのは いつかの陽炎</description>
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		<title>episodeⅠ：【氷の結晶】</title>

		<description>あ</description>
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			<![CDATA[ あ ]]>
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		<dc:date>2018-02-10T15:24:18+09:00</dc:date>
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		<title>episodeⅠ：【道化師】</title>

		<description>あ</description>
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			<![CDATA[ あ ]]>
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		<title>episodeⅠ：paradise【楽園】</title>

		<description>物心ついた頃から親は居なかった。顔さえ…</description>
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			<![CDATA[ 物心ついた頃から親は居なかった。顔さえも覚えていない。そういう子供が此処には沢山いた。
でも、寂しさなんて感じなかった。これは私が道化師になった物語。


「…ィ、リリィ起きて」
「…んー」
体を揺さぶられ、リリィは重たい瞼をゆっくりと開いた。外からは小鳥の声が聞こえ、太陽の光が優しく室内を包み込んでいた。
「ほら、また変なところに寝ぐせ付いてるよ？」
「…いいよ別に。多少はねてても短いから気にならないし」
「またそんなこと言って…リリィは女の子なんだからね。朝食終わったら直してあげるね」
そう言うと少年はリリィの頭を撫でた。リリィは少し赤くなると俯く。
「ユキ兄、リリィ早く行こうよー！今日のデザートプリンなんだから！！」
「はは、ごめんごめん真緒。じゃあ、行こうかリリィ」
真緒は駆け足で階段を下りていくと、自分の朝食が置かれた席に座った。待ちきれないのかソワソワと周りを見ていた。続いてユキノ、リリィが席に着く。
此処には孤児しかいない。大人はマザーと呼ばれる女性と姿は見たことはないが朝・昼・夜と料理を作っている調理師のみである。それも此処には普通の子供は一人もいない。絵本に出てくる怪物の子だけの特別な楽園。
「皆さん、席に着きましたね？」
そう言うとマザーは手を二回ほど叩く。先ほどまで賑やかだった子供たちの声が静まる。
「それでは皆さん手を胸に添え、心を落ち着かせましょう。……主よ、この食事を祝福してください。体の糧が心の糧となりますように…」
マザーに続いて子供達も自身の胸に手を添え、目を閉じると口々に祈りを呟く。祈りが終わると楽しそうな声が聞こえ始め、食事をする音が響き始めた。
真緒は大きな口を開くと、厚切りのベーコンにかぶりついた。リリィもスープの皿を両手で持つと、一気に口に含み飲み干すと続いて白いパンに手を伸ばした。
「リリィ！それ俺のパンなのに！！」
「早いもの勝ちです～♪あ、真緒ちゃん私のウインナー取らないでよ！！」
真緒は頬を膨らませるとリリィの皿からウインナーをフォークで刺すと、口に放り込んだ。
「ﾓｸﾞﾓｸﾞ…俺のウインナーと交換したじゃんかー」
「こっちの方が大きかったのに！！」
「その白いパンだって一番大きくておいしそうだったのに…！！」
「ほらほら、二人とも喧嘩しない。真緒は僕のパンあげるから…リリィもゆっくり食べないと喉に詰まらせるよ？」
「「だって、こいつに取られるから！！」」
リリィと真緒はお互いを指さすと、睨み合った。
「ふふ、リリィと真緒はたくさん食べますね。いいことです」
「おはようございます。マザー」
「おはよう、ユキノ。貴方はもう少し食べなくちゃ駄目ですよ？いつも小食なのだから…」
「僕はこれぐらいで十分お腹が膨れます。それに二人を見ているの楽しいですから」
マザーはここの施設の管理人であり、私達の母親がわりの人間だった。私達を自分の子供の様に大切にそして愛情をくれた。
昔、子宝に恵まれない体だと医者に告げられ、一時は自殺まで考えたようだった。でも今のマザーからは本当にそんなことを考えていた人だとは思わないくらい明るくとても優しい。
「そういえば、来月はユキノの１２歳の誕生日ですね。ユキノどんなものが食べたいかしら？」
「そっか、ユキ兄…１２歳になっちゃうんだっけ」
真緒は食べる手を止めると俯いた。そんな真緒の頭をユキノがぽんぽんと撫でた。
「ずっと会えなくなるわけじゃないよ。一生の別れじゃないんだから、外に出たらまたフラって会えるよ」
１２歳の誕生日を迎えたら、子供たちはこの施設から出ていく。私達はそれを卒業と言っていた。ユキノは来月で１２歳になる。ユキノの他にも何人かの子供が卒業を迎え、この施設から旅立っていった。
「そうだよね。手紙いっぱい書くね！僕も早く卒業したいなぁ～」
「…真緒ちゃんの前に私が卒業してユキちゃんと会えるもんね～♪ほれほれ、よそ見してるとそこのプリン食べちゃうよ～」
「あ、駄目！！僕のプリン！！」
真緒は急いでプリンを頬張ると、入れ過ぎたのか咳き込んでいた。そんな姿を見て、リリィはお腹を抱え笑い、マザーはほほ笑みながら、優しく真緒の背中をさすった。



「リリィ」
今日はユキノの誕生日会の為、子供達は装飾に励んでいた。
リリィも折り紙で作ったレースを壁にテープで張り付けていた。ユキノはにこっとほほ笑むと、寝室の方を指さした。
「ちょっとリリィに話したいことがあるのだけど今、大丈夫かな？」
「…うん？ごめん、ちょっとユキちゃんとお話ししてくるから少しだけお願いね」
リリィは一緒に作業をしていた男の子にそう声をかけると、ユキノに続いて部屋に入る。ユキノは学習机の椅子に腰かけると、リリィは向かい合うようにベットに腰かけた。
「どうしたのユキちゃん？」
「…リリィは何歳になるんだっけ？」
「え、あー…多分今が８歳だから、4年後にはユキちゃんと同い年になるよ」
「リリィと初めて会った時さ、リリィ凄く警戒してて全然お話すること出来なかったよね」
「はは、みんな敵だと思ってたから。なんでそう思ってたか忘れちゃったけど…でも、私もユキちゃんに初めて会った時はこんな綺麗な男の子いるんだ！！って思ったよ」
「真緒とすぐに喧嘩になっちゃって、二人とも傷つけてきては僕が手当したっけ…」
「そうだね。最初はよく喧嘩してたかも。どっちが強いかとか…女だからって負けたくなかったのかもしれない。あと、ユキちゃん手当してもらいたい欲しさに？」
「やっぱりか。薄々気づいてた…二人とも手当中ニコニコしてるんだもん。…リリィ、君に頼みがあるんだ」
ユキノは真剣な顔になると、リリィを見つめる。リリィもこくりと頷くとユキノの言葉を待つ。ユキノは、目を伏せたり唇を少し噛むしぐさをしたが、やっと口を開いた。
「リリィが１２歳の誕生日を迎える前日に真緒と一緒にこの施設を抜け出してくれないか？」
「…え？なんで、だって次の日を迎えたら自然に卒業していくじゃない？どうして…」
「……今は言えない。必ず迎えに行くから。頼むリリィ…お前たちとは…」
「ユキノ、リリィー？そろそろ、誕生日会始めるわよー」
突然マザーの声がし、リリィは驚いた顔をした。いつの間にか準備が終わっていたのかもしれない。微かに今日のメインディッシュのポテトグラタンの良い匂いがした。
「今行きます。布団とかこのまま置いていくね。僕が使ってたベッドの方が奥行きがあるから、リリィ使うといいよ。いつも足曲げて寝てるだろう？」
「…うん、ありがとうユキちゃん。あ、誕生日おめでとう！」
「ありがとうリリィ」
ユキノは困った様な照れくさそうな顔をすると、ほほ笑んだ。
ユキノの誕生日会はとても和やかに終わった。真緒は離れたくないとユキノに抱き着いていたが、泣き疲れたのか今はスヤスヤと寝息をたてている。
「明日の朝には出発しちゃうんだよね…？」
ユキノはスーツケースに荷物を詰めるとジッパーを閉めた。そして学習机の椅子に腰かけるリリィの方に視線を向けた。
「そうだね。皆が寝てる間に出る予定だよ」
「…ねぇ、ユキちゃんさっきの事だけど…っ？」
ユキノは人差し指を唇に当てると、首を小さく振った。
「…リリィ、髪の毛伸ばすといいよ。君の髪は月の光に会って綺麗だから…きっと美しいだろうな。」
「そう、かな？じゃあ、伸ばすよ。今度会うときはユキちゃんが驚くくらい綺麗なお姉さんになってみせるから」
「はは、楽しみだな」
「手紙…真緒ちゃんと一緒に書いて送るね」
「うん、僕も書くよ。それじゃあ、もう寝よう？おやすみリリィ」
「うん、おやすみなさいユキちゃん」
リリィは布団に入ると、瞳を閉じた。次に目を覚ますとユキノの使っていた場所は綺麗に整理されており、枕もとに小さなリボンがついた鍵が置いてあった。
リリィはそれを手に取ると首を傾げた。
「これ、どこの鍵だろう…？あ、」
リリィは思い出したようにユキノの使っていた学習机の引き出しから木箱を取り出した。
前にユキノがこれと同じような鍵で開けていたのを見たことがあった。リリィがのぞく前に鍵は閉められ中を見ることは出来なかったのだが、ずっと頭の片隅で残っていた。
「もしかしてユキちゃん忘れていっちゃったのかな…？でも、なんで枕元に…」
リリィは木箱の鍵穴に鍵を差し込むと、カチャンと小さく音を立て開いた。
そこには、一冊のノートと一通の便箋が入っていた。ユキノの綺麗な字でリリィ宛のものとすぐにわかった。続いてリリィはノートのページをめくり始めた。
読み終わると、木箱に鍵をかけると自身の机の棚の奥にしまい込んだ。
「…ユキちゃん、なんで私に…？」
リリィはまだ寝息をたて、幸せそうに眠る真緒の顔を見ると、鍵に紐を通し、首にかけると服の中に入れた。

「リリィ？」
リリィは我に返ると、目の前に心配そうに眉を下げるマザーと真緒がいる。
「どうしたのですか？今日は食があまり進んでいないようだけど…」
「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていて…真緒ちゃん私のデザートあげるよ。はい」
リリィは真緒にフルーツタルトが入る皿を差し出すと、真緒は怪訝そうな顔をした。
「…なんかリリィ変なものでも食べた？リリィが僕にデザートくれるなんて…もらうけど！」
ユキノが施設から卒業し、３か月が経った。あれからユキノからの手紙は一度来ている。町の工場に手伝いとして住み込みで働かせてもらっていて、みんなとても良い人で毎日楽しく過ごしている。施設の事を思い出すととても懐かしい。また余裕が出来たら遊びに行くよ。という内容だった。
「……」
ハーメルンの笛吹き男。リリィも読んだことがあるグリム童話の挿絵がノートのページに貼りつけられていた。
最初それをユキノ、真緒と一緒に読み進めたときリリィは気持ちの悪い物語だと思った。読んだのはずっと前のことなので詳しい内容はあまり覚えていないがストーリーの流れは記憶していた。ハーメルンという町にはネズミが大繁殖し、人々を悩ませていた。そんなある日町に色とりどりの布で作った衣装を着て、不思議な笛を持つ男が現れ、報酬をくれるなら街を荒らしまわるネズミを退治してあげましょうと人々に提案した。人々は男に報酬を約束すると男が笛を吹きみるみる内に町じゅうのネズミが男のところに集まってきた。男はそのまま町の外にに流れる川に歩いてゆくと、ネズミを残らず溺死させた。
しかしネズミ退治が済み男が町に戻ってくると、人々は男との約束を破り、報酬を払わなかった。
笛吹き男はいったん町から姿を消したが、再び現れると住民が教会にいる間に、男は笛を鳴らしながら町の通りを歩いていくと、家から町中の少年少女たちは出てきて男の後に続いて町の外に出てゆき、二度と戻ってこなかったという。
この施設を卒業していった子供達も誰ひとりとして戻ってきたことがない。手紙には同じように余裕が出来たら顔を出す。遊びに行くよ。と書かれていたのを思い出した。今までは何の違和感も感じていなかったリリィはユキノの残したノートを見てから、周りの子供たちの様に施設の外から来るその手紙を心から喜ぶことができなかった。
ぽんと、リリィの肩にマザーの手が置かれた。
「リリィ、何か悩み事があるのなら私が聞きますよ？」
「あ、うん…」
「私はここでは貴方達の母親代わりなんですからね…？私も相談してもらったらとても嬉しいですから」
マザーはにこっと笑うと、リリィの頭を撫でた。
「…ありがとう、マザー」
リリィはそう言い、こくりと頷いた。
「さて、今日は天気がいいですから食事が終わったら、外で遊びましょうか」
マザーのその提案に子供達は喜びの声をあげると、食事が終わった者から自身の部屋へ向かいそれぞれスケッチ道具や、読書をする子は本を男の子達はボール等を持っていた。リリィと真緒も食器を片付けると、他の子供達と同じく外へ出ていく。
「真緒ーリリィー、かくれんぼしようよ」
数人の子供達が駆け寄ってくると、輪を作った。
「やろう、やろう！じゃあ、じゃんけーん…ぽい！」
「あー…僕が鬼だ。じゃあ、１０数えるよー？」
「えー駄目駄目！！３０にしようよ。今日は外なんだからさー」
真緒は鬼になった子にそう言うと、鬼になった子はうーん、と少し考える。
「じゃあ、今日は室内禁止で！！外だけね。じゃあ…いーち、にーぃ、さーん…」
「リリィどこに隠れる？」
「じゃあ、真緒ちゃんはあっち、私はこっちに行く」
「オッケー！！じゃ、健闘を祈る！！」
「なんじゃそりゃ…」
真緒は駆け足で駆けていく。すでに十まで数える声がするためリリィも急いで隠れる場所を探すため首を左右に向けた。
「…マザー？」
視線の先には深刻そうな顔をしたマザーと、外から来た人だろうか杖を持った老人が施設の中に入っていくのを見ると、リリィは二人の後をそっと追った。
motherと書かれた部屋に二人が入っていくのを確認すると、気づかれないように足音を立てずに近付き、聞き耳をたてる。微かに話声が聞こえる。
「Mrs.…今回は素晴らしい…を頂き…私は…満足しております」
「…アンターソン様のところに行ったのですね…私の方こそありがとうございます…それで、ユキノは…か？」
ユキノと言う言葉が聞こえ、リリィはどきりとした。あの老人はユキノの手紙に書いてあった町の工場の関係者だろうか。
「それにしては、塵一つない綺麗な服着とるなーって思っとる？お嬢はん」
突然後ろから声がすると、手首を捕まれる。
「お嬢はん、可愛らしいなぁ～？瞳がくりくりしててビー玉みたいで…」
狐みたいな細い目と、張り付いたような薄気味悪い笑顔の青年はリリィの手首を握っていた。
握られた手は冷たく、じっと見つめられた瞳から逃れることが出来ずリリィはその青年を見上げていた。
「あら、リリィどうしたの？」
ドアが開くと、マザーが姿を現す。緩められた隙にリリィは青年の手を振り払うと、握られていた腕をもう片方の手で握り、俯いた。
「……」
震えが止まらず、唇がカタカタと音をたてる。リリィは瞬時に感じ取ったこの青年は危険だと。全身に警告音として鳴り響いた。
「……本当、可愛らしいわぁ」
青年がくしゃりと笑う。
「ごめんなさいね。この子達あまり大人の人と会ったことがないから…少しびっくりしてしまったのかも」
マザーはリリィを自分に引き寄せると、抱きしめた。少しずつ震えが治まっていく。
「あー！！リリィ見ぃー付けた！！室内は駄目って言ったじゃん！！次はリリィが鬼ねー？」
リリィ以外みんな見つかっていたらしい。真緒が頬を膨らませていた。
「ほら、リリィ。いってらっしゃい」
「…うん」
リリィは真緒たちの方へ歩いていくと、マザーと青年は部屋に入っていった。

「……部屋の前を通るのは３回。折り返して戻ってくるまでは３０分程度…荷物は少ない方が動きやすいかもしれない」
季節は冬になっていた。連日の雪のせいで夜でも月の光に反射して外はうっすらと明るい。
リリィは毛布に包まると、ドアの近くに座りこみ見回りをしているマザーの足音に耳をすませていた。ぶつぶつとつぶやく。
あれから２人ほどこの施設を卒業していった。マザーは必ず正装をしていて、夜中に彼らを送り出していた。
「マザーが外に出ている時間は１０～１５分…。建物の裏側から出れば、すぐには気づかれないはず…」
「リリィ…本当にここから降りるの？」
真緒は不安そうな顔をしながら、最後の結び目をぎゅっと縛った。結ばれた色とりどりの布は部屋の半分を占めていた。マザーに見つからないように昼間はベットの下に隠して置いていた。
「カーテンとシーツでロープ作るとか言ってさー…マザーに怒られ…」
「しっ、真緒ちゃん。マザーに見つかったら…怒られるかもだけど、ユキちゃんのところに行くだけ…そしたら逃げちゃおうよユキちゃんと一緒に、ね？」
「鬼ごっこ…かくれんぼみたいだね。ユキ兄元気かな～？あれから全然お手紙返って来ないんだもん」
真緒は頬を膨らませているが、ユキノに会えるのが嬉しいのかソワソワしていた。
「私が先に降りるから、真緒ちゃんが後から降りて来て？真緒ちゃん落ちて来ても受け止められるから」
「あーあ、僕がもっと身長があればなー…そしたら僕がリリィのこと抱っこできるのに…」
窓を開け、作った布のロープを垂らした。ロープ先に重りの為に昼間に大きめの石を何個か拾い集めていた。ぐっぐっと引っ張ると強度を確かめる。
ロープの作り方もマザーが見回る時間帯もユキノの残したノートには細かく書いてあった。
そしてこの施設のことも、施設に訪れてきた人達の目的も。
「ここから出たら、すぐに森に入って明るくなってきたら町に降りよう。足跡も降ってる雪で朝方には消えてる。そうノートに書いてあったから」
リリィはスッと滑るように下に降りていき、音を立てないように地面に下りた。真緒も続いてゆっくりと下りてきている。
「……部屋の前を通るまで、あと大体７分。真緒ちゃん急いで」
大きな声を出すことが出来ないため、分かるように口を大きく動かした。真緒はこくりと何回も頷く。
すると、ビュンと強い風が吹き布のロープが大きく揺れる。
「わ、わわわわわっ…！！」
「っ、真緒ちゃん！！」
真緒はびっくりしたのか片手を離してしまい、ぶら下がる状態になってしまった。まだ半分も下りて来ていなかった為この高さで落ちたら、最悪骨折も免れない。
そしたら森まで行くのは困難で、部屋にいないリリィ達にマザーが気づいてしまえばすぐに捕まってしまう。
「やだやだ…！！怖いよリリィ！」
「っ、真緒ちゃん手離していいから！！絶対受け止めるから…！！」
「無理だよ！絶対に受け止められないよ」
体重を支え切れない布がびりびりっと音を立てると、ぶっちんと切れた。
「うわぁぁぁあ！！！」
「ギリギリセーフやろか？元気やなぁー君らは」
落ちてきた真緒を自分の胸にキャッチすると、ゆっくりと下した。
「真緒！リリィ！！」
マザーは真緒に駆け寄ると、抱きかかえた。真緒も安心したのか泣きじゃくりながらマザーの胸に顔をうずめた。
「なんで…？この人がいるの…？」
リリィは後ずさると、月に照らされ更に気味の悪さが増した青年を見上げる。
「なあ、Mrs.リオ。この嬢ちゃん僕にやっぱりくれん？４年も待てへんわ」
「……約束は１２歳になったらだったはずです。私は貴方には本当に感謝しきれませんわ…でも、これだけは譲れません」
「なら、この嬢ちゃんが自分の意思で決めたんなら問題はないってことでええんでしゃろうか？」
すると、青年はリリィの前にしゃがむと、耳元まで顔を近づける。
「そのノートに何が書いてあるかは検討はつく。ユキノ君は勘が優れとるし、頭がええからなぁ。…僕ね、君らみたいな可愛らしい子達が大好きなんや嬢ちゃんが僕と一緒に来てくれはったらあの抱っこされとる子には手は出さないし、この雪が赤く染まることは避けられるよ？どうする？」
マザーの後ろでチカチカと何かが光っている。それはしゃがむ青年の指に何重にも絡まっている。リリィはごくりと唾を飲みこんだ。
「…手出ししないって約束して。絶対に…」
青年は目を細め、「約束するわ」と言うとリリィの頭をぽんぽんと撫でた。
リリィはマザーの方へ行くと、マザーは悲しそうに眉を下げる。
「……マザー、私このお兄さんのところに行きたいです」
「……」
マザーは青年を見ると、ふうと息を吐きリリィの眼をじっと見つめた。
「リリィ…貴女に神のご加護がありますように」
手を伸ばすマザーを避けると、リリィはぐっと拳を握る。
「…私、前よりマザーが好きじゃない。だからごめんなさい。でも、今日までお世話になりました」

次の朝、子供達がまだ起きない頃リリィは最低限の荷物を入れたバックを握った。
「じゃあ、行こうか嬢ちゃん」
青年が乗って来たのだろうか一台の車がエンジン音をたてている。
「リリィ、どこ行くの？」
真緒はぎゅっと、バックを持っていない手を握る。泣き疲れて寝てしまうと思っていたリリィは一瞬驚いた顔をしたが、にこっと笑う。
「真緒ちゃん。また１年後に会いにくるね」
マザーは青年に条件を出し、あくまで１２歳でこの施設から卒業の形にする為それまではこの青年の手伝いを頼まれて一時的に出ていくだけであると、青年もそれを了承した。
「ユキちゃんからの手紙も私が持ってくるね。だから楽しみにしててよ」
「えー！リリィ、絶対途中で開いちゃ駄目だからね！帰ってきたら一緒に読もう」
「うん」
ユキノがどこにいるのか。そして自分はこれからどこに連れてかれるのか。リリィは不安な気持ちを抱えながら、どんどん小さくなる建物をずっと、ずっと見つめていた。

 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2018-02-02T17:27:09+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry15.html">
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		<title>12：symmetry【シンメトリー】</title>

		<description>「あらら、切られてしもたわ」
ジキルは…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「あらら、切られてしもたわ」
ジキルは残念そうにため息をつくと、グッと背伸びをした。
「・・・・」
「…相変わらず無口やなぁ。エンマくんは」
エンマはジキルの方へ一瞬視線を向けるが、すぐに興味なさそうに視線を外した。
「そういえば今日は世釋様と一緒におらへんやなぁ。めずらしいわー」

「…世釋は朝からどこかに出掛けてる」
「わぁ、初めて声聞いた気がするわ。どエライハスキーボイスだね。僕、いっぺんエンマくんと二人っきりで話してみたかったんや～」
ジキルはわざとらしく驚いた顔をした。
「・・・・」
ジキルはちょいちょいと手招きをすると、エンマは少し躊躇したがしつこく手招きをするジキルに渋々と側に近付く。
「ほら一応同じ目的を持つ協力者として仲を深めたいなぁと。僕と君は見た目的には年長組みたいな感じだし」
「…年長組」
「ものの例えとしてなぁ。藍ちゃんとニアくんは年少組で、世釋様は年中組みたいな。あ、ビッチ女は論外でなー」
ジキルはケラケラと笑う。
「…何が切られたんだ。さっき」
話を逸らすようにエンマはジキルに話をふる。ジキルはつまらなさそうに肩をすくめる。
「あー…ちょっとした盗聴？でも、やっぱりそう簡単にはいかなかったわぁ」
「…」
「…エンマくんは興味ないん？自分の正体とか…例えば、あの子との関係とかさ」
「あの子…？」
ジキルは面白そうににたぁと笑う。
「エンマくんと似た…」
「ジキル」
後ろから静かに名前を呼ぶ声に、ジキルは発しようとした言葉を飲み込んだ。
「…おかえりなさい世釋様。もう、いきなり後ろに立たないでおくんなはれービックリしましたわぁ」
「はは、ごめんごめん。楽しそうに二人で話してたからね。声をかけるタイミングがつかめなかったんだよ」
表情は笑顔だが目が笑っていないことはすぐにわかった。
「…ホンマ、恐いお人やわ。あ、先に謝りまへんと。薬の効果は抜群なんやけど、早い段階で対策たてられそうかもですわー」
「そう。でも、十分失った数は達成できたから良いと思うよ？ジキルに任せて本当によかったよ。…何か欲しいものあるなら用意するよ？」
「それは何でもええんでしゃろうか？それなら僕欲しいものあるんですわぁー」
ジキルは世釋に耳打ちすると、世釋はにこりとほほ笑むと頷いた。
「それなら、その近くにニア達が行ってるから持ってきてもらうよ」
「ホンマおおきに世釋様。さてと、僕は少し休ませて頂きますわー」
そう言うと、ジキルは部屋を出ていった。
「…エンマ」
「…はい」
エンマは手で頭を押え、眉間に皺を寄せていた。
「エンマちょっとしゃがんで。君は背が高いからこのままだと僕の腕が痛くなる」
少ししゃがんだエンマに世釋は抱き着いた。そして頭を優しく撫でる。
「…エンマは何も思い出さなくていい。君は僕のモノだ。僕だけの側にいて僕だけを見てればいい…いいね？」
「…」
世釋は愛おしそうに微笑んだ。


・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－

ガタンゴトンと汽車が音を立てる。窓を開けると心地よい風が室内に入ってきた。
郁達はリリィと東雲が育った施設へ向かっていた。向かい側に座る夕凪は先ほどから手を握ったり閉じたりと動作を繰り返している。
「夕凪ちゃんなんか落ち着いてないね」
「いや、私は十分落ち着いてる。只、アルカラのジキルと戦った時に腕を細かく切り刻まれてな。見た目は再生できたが感覚がまだあんまり戻って来てない気がしてな」
「え、なんて？」
「？だから、感覚がまだ戻ってきて…」
「いやいや、切り刻まれたって…」
「…ああ、ミンチよりは細かくはないよ」
「はぁ？いや、細かさの限度じゃなくて…！！大丈夫なのそれって…」
夕凪は呆れたように首を傾げると、ため息をついた。
「別に腕を切り刻まれたぐらいで死なないし、お前も体感しただろう？吸血鬼は再生能力が高いんだ。程度によっては時間はかかるけど…」
「一応夕凪ちゃんは女の子なんだから傷作ったらお嫁に…いや、うん」
「…大きなお世話だし、それにそんなこと気にしてたら殺られるだろうが。あ、見えてきた」
そう言うと、郁も窓の外に視線を向けると、西洋風の建物が見えてきた。
「夕凪さん、郁さん。駅に着いたら少し歩くと思いますが大丈夫ですか？」
後ろに座っていた東雲が顔を出した。
「一回来たことがあるからな道は覚えてる。東雲はどうするんだ」
「俺は先に向かいます。見張りの方に説明しないとですし…」
そう言っているうちに汽車はゆっくりとスピードを下げ、目的の駅へ止まった。
「では、先に行っています」
東雲はそういうと同時に上着の脱ぐと背中に翼のようなタトゥーが現れる。それはみるみる内に綺麗な黒い翼になった。
バサッと翼が動くと、風が起こり東雲の足が浮く。
「本当にリリィが言ってたような綺麗な翼だな…」
郁はぽつりと呟いた。東雲は唇を噛むと、翼を動かし施設の方へ飛んで行ってしまった。
「私達も行くか。…どうした、難しそうな顔して」
「いや、東雲くんってリリィを嫌っているような感じがなんかしないんだよな。もっと、違う感じがするっていうか…」
「…お前が変な推測しても仕方ないだろうが。2日しかないんだ汽車で一日も使ったんだからな」
夕凪は郁の服をグイグイと引っ張る。よっぽど早く向かいたいようだった。
「……夕凪ちゃんって時々可愛いよね」
「…はぁ？良いから早く行くぞ」
夕凪バッと前を向くと、早歩きで進んでいった。耳まで真っ赤にした夕凪を見て郁はふっと笑った。

だいぶ歩いたと思う。予想していた以上の距離に郁ははぁーと深いため息をついた。
入口には東雲と第一支部の人だろうか話し込んでいるように見える。東雲は郁達に気づくと話を中断し、近づいてきた。
「すいません。七瀬さんが話を通していただいた方がまだいらっしゃってないようでして他の隊員の方達に事が伝わってないようでした。一応確認を取っていただいているところなんですが…」
「そうか。…東雲確認取れたようだぞ」
第一支部の隊員は電話相手とまだ何か話しているようだが、もう一人の隊員が口パクパクさせ「大丈夫です」と言っているようだった。
「あ、そのようですね。じゃあ、行きましょうか」
郁は改めて建物の外観を見た。赤茶色のレンガには蔦が絡まっている。門が開き郁達は建物の中に入るが、昼間にも関わらず薄暗く不気味が悪い。誰かの忘れ物だろうか可愛らしいウサギのぬいぐるみが転がっている。
「夕凪さん。書籍があるのは階段を上がった奥の部屋です。入口にmotherと書いてあるのですぐにわかると思いますよ。俺はまだ調べてない下の階を見ますので」
「わかったありがとう」
夕凪と郁は階段を上がっていく、第一支部の隊員が後ろについてきている。
東雲を見ると先ほどまで電話をしていた隊員の人がついていた。郁の視線に気づいたのか隊員は口を開ける。
「大丈夫ですよ。こちらも指示が出ているものでお調べものの邪魔にはなりませんので」
「いや、ごめんなさい。悪気はないんです。あ、でも大丈夫なんですか外に誰か居なくても…」
「心配しなくても大丈夫です。さっき遅れてきた者が到着してますので、こちらこそすいません伝達ミスでお手間をおかけしましたね…あ、私第一支部の青柳と申します。第二支部の狗塚さんですよね。よろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。青柳さん」
夕凪は足を止めると、motherと文字が彫られているドアを開けた。
室内はカーテンが閉められており、隙間からの光が微かに漏れ出していた。アンティーク調の机と椅子や分厚い本が入る棚は当時のまま保管されていると青柳は郁に説明してくれた。
「これはすごい量だな…東雲にどの資料か先に聞いておけばよかったな…」　
「俺聞いてこようか？東雲くんに」
「いや、私が聞いてくるから良い…」
「…もしでしたら私が探しましょうか？」
青柳はおそるおそる手を上げる。夕凪は一度本棚を見渡すと青柳の方へ視線を向ける。
「…ジキル博士が調べていた物はある？」
青柳は少し考える顔をしたが、「確かこちらかと…」と1冊の本を取り出した。夕凪は受け取るとパラパラとページをめくる。
郁も横から覗くとびっしりと文字が書かれており所々に赤ペンでメモ書きがされている。
「吸血鬼…エリーゼの記録か。…この先はやぶれと血で貼りついて見えないな。東雲が言っていたことも書いてある。これで間違いはないようね」
「良かったですお役に立てて…」
青柳は嬉しそうに微笑む。夕凪はパタンと本を閉じるとじっと入口の傍に立つ青柳を見つめる。
「…なんで分かった」
「はい…？何のことでしょう」
郁もはっと気づき、さっと夕凪の前に立つ。夕凪は「邪魔だから前に出なくていいから」と言ったので、郁はもとの位置に戻った。
「なんでジキル博士が調べていた物と言ってすぐにこの本だとわかった？」
「…」
「それにここは何度も入れる場所じゃない。私達でも許可されて二日間だけしか時間がもらえなかったしね。警備してるって言ってもこの本の内容を覚えるほど出入り出来るとは思えない」
青柳はふうとため息をつくと、にこりと笑った。すると、部屋の扉が何かの力により勢いよくバタンと音をたて閉まり室内はさらに暗くなる。
「私は少し演技というものが下手なのかもしれませんね…ごきげんよう、ノアの箱舟さん」
掛けられた声に夕凪と郁は身構える。青柳は自身の髪を一括りにサイドに縛ると着ていた隊服を脱ぎ身なりを整える。
長いサイドポニー、隠した片目。その容姿には覚えがあった。宮下の研究室そして色欲の悪魔イヴと対峙した際にいたあの少女だった。
「―どうしてここにいる。アルカラ」
夕凪は少女に容赦ない殺気を向ける。
「うん、ごめんなさい。事を構える気はないっていうか…こないだは妹が失礼したみたいだから、謝りに来たの。…あの人はいないようだけど」
「……妹？」
よく見れば少女は先日のような冷酷な目をしていない。それどころは隠している目が逆だった。翡翠色の瞳が鈍く光る。
夕凪はそれに気づいているのかじっと少女を観察するように見つめる。手はいつでも日本刀をぬけるように柄に触れているようだった。
「…そう、私は朱。妹は藍。肉体同一の双子よ」
朱と名乗った少女はまるでこの争いを知らないかのように朗らかに笑った。


・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－

「ふう、これで一応は安心かな…？」
ラヴィはベットの横の椅子に腰かけた。奈々の寝息は先ほどよりも落ち着きを取り戻している。
「…君にまた助けられてしまったねエリーゼ…会いたいな …ははっ」
バーンと音がすると病室の扉が室内に飛んできた。
「…はあ、まさかと思って急いで駆け付けたら久しぶりに見たな。お前のその顔」
すると、一人の青年が眉を寄せながら入ってきた。
癖が多い天パに普段より整えているのか不快には思わないほどの無精髭。仄かに煙草の匂いがする。ラヴィはその人物も見ると頬を膨らませた。
「雨宮。やめてよ扉壊すのさー。あと、ここ病室だから病人寝てるでしょう？今回は修理代雨宮のところで持ってよね…僕嫌だからね」
雨宮と呼ばれた青年はラヴィに近付くと唇が触れるくらいの距離に近付いた。
「……何さ」
「会いたいって言うから会いに来た。心臓が煩いんだよお前に会いたいってね」
「……それ、からかってるなら僕許さないよ？雨宮」
ラヴィは雨宮を睨みつけた。
「はあ、悪かったよ調子乗りすぎた。でも、心臓が煩くなったのは本当だよ。お前が血を大量に使ったからな…共鳴したんだよこっちも」
雨宮は自身の胸を指さす。ラヴィはふうと息を吐くとウサギの面に手を伸ばした。
「…もう着けるのか」
「うん、落ち着かないんだ。これ着けてないと」
ラヴィはそう言うと、面をつけ立ち上がったり歩きだそうとするがふらっと体勢を崩し奈々の眠る方へ倒れそうになった。雨宮に腕を引き寄せられ雨宮の胸にすっぽりと収まった。
「血を使ったってのもあるけど、その面付けたら少し動くな。視界が定まってないだろう…」
「ははっ、久しぶり過ぎて忘れてた。…心臓動いてるね」
「贄は？」
「贄って…正直他の子達にはお願いしたくないんだよね。だから雨宮が来てくれて良かったかも。吸っても言いわけ？雨宮」
「どうぞお好きに？元々お前専用の贄ですからね」
「…本当なんで雨宮なのかな」
雨宮はラヴィを抱きかかえると先ほどまでラヴィが腰かけていた椅子に座る。そして自身の首筋を差し出した。
「男二人のこの絵図は純粋な少女には目に毒かな…」
「今のお前の姿ならセーフじゃない？それより彼女の毒どうなったんだ？」
「摘出した。生命維持に必要な分は残したけど増殖はしないように無力化はしてあるから大丈夫だと思う。彼女から摘出した毒で解毒剤を作ればジキル博士…アルカラに対抗できると思う。上が動くかは分からないけど」
「大丈夫でしょう。そういうことは俺が大体任されてるし、俺の部下に言えば最低でも一週間後には作れる」
ラヴィは首筋に歯をたてると、肉がプツンと刺さる音がした。
「丁度薬に詳しい青柳っていう部下が非番なんだ。持っていけばすぐに取り掛かってくれるだろうから…痛い痛い、強く噛むな」
「うーん…」
奈々が眉を寄せ、姿態を動かすがまだ起きてはいないようだった。
「…七瀬から頼まれてあの施設に行く手前で怠惰の悪魔のおチビとシスター服の少女に会った。どっちも相手にはならなかったけど…心臓を奪いに来たんだと思う」
「……」
「最近になって焦ってるのかアルカラの動きが目立つようになった気がする。お前も気を付けた方が良い」
「…………ありがとう、だいぶ落ち着いた」
ラヴィは首筋から離れると、口元を拭った。
「それで施設には行かずに戻ってきたの？うちの可愛い部下たちほったらかして…」
「あっちにいる俺の部下たちには連絡はしてある」
「…」
「あ、そうだ。そのアルカラのシスター服の子あの人と同じ瞳の色してたんだ片目だけ。それに見られた瞬間一瞬だけ心臓が反応したから間違いないよ」
「……瞳はもうアルカラの手の中か。色欲の悪魔がすでに奪っていたってことだね…」
「それかあの少女が元々所有していたか。だな」
「そしたら、あの時ユヅルの他に生還者が居たってことになるじゃないか…」
「そうだな。でもそれはあり得ない。あの場所にはユヅルしかいなかったのは、ラヴィお前が一番知ってるだろうからな。だから、只の可能性の話だよ」
「……」
その後七瀬が息を切らして部屋に入って来たため、雨宮は入れ替わるように部屋を出ていった。

・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－

「双子って…肉体同一ってことは二重人格？」
郁の問いに少女は後ろに手を組みながら、遠くの方を見つめる動作をした。
「二重人格…解離型性同一性障害というなら、違うと思う。私達は生まれて自我が芽生える前からこうだった。藍が眠っている間なら私一人でこうやって体を使えるけど、藍が起きてたら右半身しか私のものじゃないのと、言ってもそのときでも体の主導権は妹の藍の方だけどね。不思議でしょう？…そうね、貴方達と初めて対峙したときは私は眠っていたから妹が独断で動いていたけど」
「お前の話が本当だったしても、今眠っているっていう少女と目的は一緒なんだろう？」
夕凪は今にも刀を貫きそうな勢いだった。
「ですから、私は今日は事を構える気はないんですよ。…ノアの箱舟さんは無害な少女にも手を上げるんですか？」
「……」
「…夕凪ちゃん。とりあえず今は柄から手を離そう？多分今の彼女は大丈夫だと思う」
郁は夕凪を落ち着かせようと促した。夕凪は渋々と手を離すと、腕を組みため息をついた。
「…それで、ノアの箱舟の隊員のふりをして近付いて来たのはなんだ？ただ謝りにきただけじゃないだろう」
「ああ、もしかして下の階の隊員も疑っていますか？大丈夫ですあっちは本物です。…そうですね、これは私個人の気まぐれで貴方達にお教えすることなんですが【ウォッカ】という村は知っていますか？」
「【ウォッカ】？」
「そこに白い魔女が住んでいた家があります。その地下に今貴方が持っている最古最強の吸血鬼エリーゼの記録が書き写されたものがあります」
「複製があったのか…どうして、それを教えてくれる？」
少女は自身の胸に手を当てると、ふっと笑う。
「…傍観し続けるのも流石に飽きたので、次の段階に進みたいだけです。それじゃあ、そろそろ起きそうだから私は戻ります…それじゃあ、また会えたら良いですね」
少女はそう言うと、ドロドロと形が崩れていく。少女のいた場所には泥の塊が残った。
「…ふう、実体は何処か違う場所か…」
「そうみたいだね。これも彼女の能力なのかな…？」
「ユヅルがあの少女は面白い魔術を使うって言ってた。回収したカードと同様のモノだろうな」
ユヅルが少女から回収したカードは魔女のユヅルでさえも使えないものだったと、ユヅル本人から聞いた。ユヅルの魔力とは違う質の魔力でそれを話していたユヅルの顔色が暗かったのは今でもはっきりと覚えていた。
「夕凪さん、郁さん」
ドアが開くと、東雲が顔を出した。
「東雲くん」
「お二人部屋から出て来ないので、本の下敷きになってるんじゃないかと心配しました。あ、見つけたんですか？」
「ああ。でも、もっと有力な情報は手に入れた。…罠とは思いたくないけどね」
「俺も下の階を調べてみたんですが、ジキルやアルカラに関するものはなかったです」
そう言うが東雲は少し浮かない顔をしており、手には何かが入っている袋を持っていた。
「…東雲くんその袋何が入っているの？」
郁が指さし、東雲はああ、っと視線を袋に下す。
「…小さな頃の私物です。下の階は談話室だったので…俺もまさか見つかるとは思いませんでした」
それは画用紙に描かれた子供の絵と一枚の写真だった。黒髪の少年とツインテールの少女そして少し大人っぽい白髪の少年だった。三人とも笑顔で手をつないでいる。写真は当時この場所にいた子ども達の集合写真だろうか。
「……これって小さい頃の東雲くんとリリィだよね？」
「…違いますよ。リリィの方はこっちです」
東雲が写真の人物を指さす。郁は目を疑い、ゴシゴシと目をこする。
指を指した先の人物は今のリリィとは雰囲気がまるで違った。髪は男の子の様にベリーショートで、絆創膏が顔のそこら中に貼っている。
「ええっ！この子がリリィ…全然想像できないんだけど…」
リリィはふわふわふかふかしてる本当に可愛い女の子なのでこの人物との同一のイメージが持てず、郁は混乱した。
「……リリィとはよく取っ組み合いの喧嘩をしていたので、お互い新しい傷を作っては…ユキ兄に怒られてました」
「…」
じっと郁は写真を見つめる。本当に写真に写る子供達は幸せそうな笑顔をしている。東雲は写真と絵をしまうと、階段の方へ体勢を向ける。
「……大半の子供達は、もういませんけどね」
そうぽつりと呟くと、歩き出した。郁達もつづいて階段を下りた。

窓際に座り、少女は夜空を見ていた。ここは夜しかない。ずっと景色は変わらないのだ。
「ん～…、僕、どのくらい寝てたんだろう？体中痛い…」
ニアはベッドから起き上がると、ぐっと背伸びをした。
「おはようニアくん」
少女はニアの方へ顔を向けると、にこりと笑った。
「藍お姉ちゃん！！……じゃないね。朱ちゃんか…」
ニアは不機嫌そうに顔を歪めると、ため息をついた。そんなニアを見て朱はくすくす笑った。
「藍はまだ起きないわ。残念だったね？」
「……帰って来たんだ。それにしても失敗しちゃったなー僕じゃあの人には勝てないよう！！世釋様も無茶なこと言うんだもん」
ぷぅーとニアは頬を膨らませる。ふよふよっとニアの横に獏のぬいぐるみが近づいた。
「でも、もう一つは成功したからそんなに怒られないよね？よしよーしパぺちゃん、ジキルくんのところ飛んでけぇー」
ニアがそう言うと、獏のぬいぐるみは部屋を出ていきジキルがいるであろう方向へ飛んで行った。
「それで、藍お姉ちゃんはいつ起きるの？」
「さあ？もう少しかもしれないし、一生目覚めないかもね？」
「…朱ちゃん嫌ーい！」
「ははっ、ニアくんをからかうのが本当に面白い。心配しなくても大丈夫よ。そろそろ起きるよ…」
そう言うと、朱は目を閉じた。　
「………おはよう、藍お姉ちゃん」
「…ニアくん、おはよう」
ニアは満面な笑顔を向けると、ベッドから降り藍の側に駆け寄った。

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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2017-10-16T08:33:47+09:00</dc:date>
		<dc:creator></dc:creator>
		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
	</item>
	<item rdf:about="https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry14.html">
		<link>https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry14.html</link>
		
				
		<title>11. the ringleader【元凶】</title>

		<description>「あ、心配せんで靴の裏はちゃんと拭いて…</description>
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			<![CDATA[ 「あ、心配せんで靴の裏はちゃんと拭いてあるさかい」
強欲の悪魔と名乗ったジキルは玄関へ上がると、郁達の方へ進んできた。郁は奈々を背に隠すと、ジキルを睨む。
「そないな怖い顔せんで。別に危害を加えようと思ってへんから～」
ジキルは両手を胸の位置まで上げると、ひらひらと手をふった。
「…さっきのはどういう意味ですか？貴方は…恭哉くんと奈々ちゃんに何をしたんですか？」
「…昔から僕、可愛らしくて幼い子が大好きなんだよね。ずっと手元に置いて眺めていたいくらい…ペドフィリアって言うんだって、僕みたいな人」
「…質問に答えてください」
「うーん、どこまで話せばええやろか。まあ、ええわ。僕らアルカラは人間をデッドにすることが可能になりよったんや。世檡様が直接血を与えなくも、それよりもようけデッドに出来るようになぁ」
郁はその言葉を聞いて、ふと、あの研究所の宮下と真由の事を思い出した。
「勘がええなぁ。そう、あの研究者に渡した薬を製造したのは僕。まあ、あれから技術を高めて現在に到ったんやけど。それよか、あんさんの後ろの子大丈夫？」
郁はばっと、視線を奈々に向けると、奈々は苦しそうに胸を押えていた。
「奈々ちゃん…！」
「あらら、体内の毒を放出する先がないから、自身に毒が回ってきたようやね。可哀そうやわー」
「奈々ちゃんに何をした…！」
「この子は只の感染源。この子の中に入った毒は彼女ではなく周りに感染するちゅうわけや。じっくり、じっくり時間をかけてなぁ。君を会ったことあるんやない？例えば、白崎綾音ちゃんとか」
「…は？」
白崎綾音。１８歳。地下アイドル【スノー・ホワイト】に所属しており、当時はそのクループのコンサートライブがあり白崎綾音は次のステージの小道具を楽屋に忘れてしまい取りに行くと同じメンバーの藤崎美雪に伝えたそうです。戻った楽屋で河上武志と接触し、襲われたのだと推測されます。
「あと、姫川美咲希ちゃんとか？あ、この子はデッドになった方か」
「…っ」
「君が今考えとること当ててあげようか？君が殺したあの男やこの子を襲っとったデッドも、もしかしたらデッドにされた只の人間やったかもしれへんってなぁ。…この子たち以外にも『感染者』おるかもしれへんよ？はようどなたはんかに知らせへんとねぇ」
ジキルはニヤニヤと笑う。
「貴方達は、何をしたいんですか…？！…こんな小さい子まで傷つけて！」
「僕だって心痛むよ？可愛らしくて幼い子は、ね。さてと、貴重なデータも取れたことだし久しぶりにあの子の顔見てから帰ろうやろかっと。あ、その子多分以って半日くらいやない？他の人間に感染させれば一時的に楽になるかもしれへんけどね？」
「－っ！！待て！！」
ジキルはそう言うと、玄関を出て夕凪達が向かった方へ進んでいく。
「お兄ちゃん…」
「っ、奈々ちゃん。大丈夫だから…とりあえずすぐに病院…は、駄目だっ、どうしたら…！」
郁は震える手で、タブレットを押す。コール音がし、ラヴィの声が聞こえる。
郁は今まで起こったこと、ジキルが言ったことを事細かに伝える。奈々は郁の胸に項垂れ、苦しそうに息を吐いていた。
『…大体の事情は分かった。すぐに東雲くんがそこに行くと思う』
「…はい。あと、夕凪とリリィですが…二人の方へアルカラのジキルと名乗る男が向かっていってしまっていて…」
『心配しないで。そっちにはボクが向かってる。ごめん、通信切るね』
プツンと通話が切れる寸前リリィの悲鳴が聞こえた。


「リリィ。彼の匂い追える？」
「うん！大丈夫。そっち！！」
夕凪とリリィは玄関を出ると、恭哉を追った。あまり遠くへは行っていなかったのか、前を走るリリィは足を止めた。少し錆びた公園のブランコに上に恭哉は俯いて座っていた。
「…さっきまではしなかったのに、血の匂いがする。それも一人二人じゃない…鼻にこびりつく程匂うよ。夕凪ちゃん」
リリィは眉を下げると、悲しそうに夕凪の方を見た。夕凪はふうと息を吐くと、日本刀に手を触れた。
「…保護する。抵抗した場合はデッドと同じく対処するよ。いいね、リリィ」
「……」
キーキーとブランコが揺れる。夕凪とリリィはゆっくりと恭哉に近付く。
「…気分がいいんだ」
恭哉は俯きながら、耳に届く声を発した。
「…体の弱かった妹にずっと両親はつきっきりでさ、まともに会話なんていつしたかな…？忘れちゃったよ。口を開くたび、お兄ちゃんなんだから我慢しなさいとかしっかりしなさいって言われて本当うんざりだよね。だから俺、今の自分がとても気分がいいんだ。両親だって心配してくれる。今までのように良いお兄ちゃんを演じられる。苦しくないんだよ心がさ…」
ブランコの近くの街灯の光がチカチカと切れたり灯る。
「っう、」
リリィは口を押えると、後ずさる。
「…まだ新しい。ねぇ、貴方それ喰べたの？」
夕凪は冷静に恭哉の足元を指さす。指さす先には犬の死骸。顔を上げた恭哉の口元には血を犬の毛が付いていた。
「うん。あの時食べ損ねたからね。ジョンだっけ？でも、なんかあんまり美味しくなかったよ」
恭哉はははっと無邪気に笑った。
「まだお腹も満たされてなくてさ…そっちのお姉さん犬臭いからさ、貴女のこと喰べても良い？」
「…もう、駄目だ。七瀬さんの言ったことに私も賛成だよ。こんなの保護なんて出来ない…」
夕凪は刀を抜くと、恭哉へ刀を振りかざした。恭哉は不思議そうに斬られた傷口を見ると泣き出した。
「痛い、痛いよ。なんでそんなことするの？俺、悪い事してないのに…」
「－っ、夕凪ちゃんやめよう？！ね、ラヴィさんが言ったように保護しよう？もしかしたら何か違う方法あるかもしれないじゃない。こんなの、きっと違うよ…！」
「リリィしっかりしなさいよ！！彼は、確実にデッドなのよ？！」
「違うよ！！違う！デッドだったら私達に攻撃してくるじゃない！この子は腕だって変形してない今だって攻撃してこないじゃない！！」
リリィはそう言うと、夕凪の握る刀を奪おうとする。
「リリィやめて！貴女混乱してる…落ち着いて判断出来てないのよ！」
カランと刀は地面に落ちると、夕凪は手の甲を押えた。指の間から血がポタリポタリと落ちる。
「リリィ？…貴女どうしたのよ」
リリィは浅く息を吐くと、夕凪を引っ掻いた自身の爪を見つめた。
「だいぶ見ない内に力の使い方上手くなりよったみたいやね？リリィ」
突然の声に夕凪は構える。
「体も成長しちゃって、あの頃の僕の可愛いリリィやない～！」
夜の公園には似つかない白衣姿の男は、わざとらしく悲しい顔をするとリリィの方へ近づく。
「感動の再開ってやつだね！久しぶりやなぁ。元気やった？」
男はリリィの頭をポンポンと撫でると、にこりと笑う。
「なんで…？」
リリィは目を大きく見開くと、絞った様な声を出す。
「その震える瞳はあの頃と変わりまへんなぁ？」
「いや…いや…なんで？あの時、私、殺したのに…なんで」
リリィは全身震え出し、大量の汗をドッと出した。カチカチと歯が重なる音がする。
夕凪はリリィの異様までの異変に気付くと、地面に落ちた刀を拾うと、男に斬りかかった。
男はスルリと夕凪の刀を避けると、後ろへ3歩ほど下がった。リリィは力が抜けたように地面へ座り込んだ。
「あぶなーい！セーラー服のねえちゃんが日本刀振り回しちゃ駄目だよ？」
「…お前、強欲の悪魔ジキルだな。　姿形は違うが、その張り付いたような不気味な笑顔…覚えてるよ」
「あー君、世釋様の妹ちゃんか！！眉間に皺寄せちゃって…可愛い顔台無し」
「ﾁｯ、…リリィ動ける？」
夕凪の問いに、リリィは反応しない。
「…リリィ、そこでじっとしてて。強欲の悪魔ジキルあんたを倒す…」
「はは、おもろいこと言うなぁ。…僕も、なめられたもんだなぁ」
次の瞬間、大量のメスの刃が夕凪の体を切りつけた。
「？！」
「先手必勝？メスのお味はいかがやろかお嬢ちゃん？」
夕凪はバランスを崩し倒れ、傷口から大量の血液が流れ出した。夕凪は体を起こそうと、腕に力を込めようとしたがその腕に強い痛みを感じたと同時に刻まれたと思われる肉片が地面に落ち、地面に顔をついた。
「あれ、驚いた？メスに鋼線を仕込んであるんだよね。また、ちょっとでも動いたら反対の腕も切り刻むよ？」
ジキルは夕凪に跨ると、首筋にメスを当てた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ！！！」
リリィの叫び声が響きわたる。どこからか矢が飛んでくるとジキルの肩に突き刺さった。
「...その子から離れてもらおうか？」
砂利を踏む音がし、暗闇からラヴィが姿を現した。
「あら大将はんがおでましとは。怖いわ～殺気どエライやん！涙出そう…」
ジキルは夕凪から離れると、肩に刺さった矢を抜く。
「…ラヴィさん」
「ごめん夕凪。遅くなってしまって」
「いえ、私は大丈夫です。でも、リリィが…」
ラヴィは夕凪に手を差し伸べた。夕凪は立ち上がると、リリィに視線を向けた。リリィは両手で体を抱きかかえながら俯いた。
「わかってる。さて、ボクが君のお相手しよう」
「あんはんは嫌や。この矢、普通の矢かと思ったらちゃうみたいやね。腕の力はいりまへんし…まるで腕が体からもぎられた感覚がするわ。ホンマ、怖い人やわー」
ジキルは腕を擦りながら楽しそうに笑った。
「ラヴィ・アンダーグレイ。あんはんと戦うのは正直ワイにとってええ事ないからな。ノアの箱舟に捕まると世釋様に怒られるし、僕はあんさんには勝てへんし…ここは退散させてもらうで」
「逃がすかっ！！…ラヴィさん？」
ジキルに飛びかかろうとした夕凪をラヴィは止めた。
「…ほな、さいならー」
ジキルは手を振ると、暗闇の中へ消えていった。
「…どうしてですかラヴィさん」
「今の状態で彼を捕まえるのはリスクが高すぎる。リリィのこと考えるとね」
「…」
ラヴィはリリィの前にしゃがむと、震えるリリィの腕に優しく触れた。
「…リリィ帰ろう」
リリィはラヴィを見ると、ボロボロと泣き出した。
「ラヴィさん、彼は…」
「…ボクはリリィを連れて先に戻る。夕凪、君は後から戻っておいで」
「…わかりました」
夕凪は地面に転がる刀を拾うと、強く握りしめた。


ピッピッピッ…

奈々は今は酸素マスクを装着し、落ち着いた呼吸を繰り返していた。郁はガラス越しに横たわる奈々を見つめていた。
あのあと東雲が駆け付け、奈々を連れノアの箱舟に戻って来た。容体が原因不明の為奈々のいる部屋には一部の人しか入れない。
奈々の側でモニターを見る人も、点滴を交換している人も皆完全防具に身を包んでいる。
「郁さん」
「あ、ごめん何？」
「夕凪さん戻ってきましたよ」
「そう…」
郁はほっと胸を撫でおろし、視線をまた奈々に向けた。
「…今、あの子の血液を調べているそうです。まだ結果が出ないようですけど」
「そう、か」
会話が途切れ、奈々につながる機械装置の音が微かに聞こえる。
「…東雲くんってさ、冷静だよね」
「そうですか？」
「いや、俺なんてあの場でどうすればいいか分からくなって冷静を保つことが出来なかったから…」
東雲は郁の横に立つと、視線を合わさずぽつりとつぶやいた。
「…俺は最初からその場にいなかったのと、あの子と時間を過ごしたわけじゃないですから」
「あ、居た居た！郁くんと真緒坊ちゃん」
「七瀬さん…」
「…坊ちゃんって呼ばないでくださいよ七瀬さん」
「会議室に全員集合！あの子の分析結果とこれからのこと話すよ」
七瀬に付いていくと、会議室には既に夕凪とラヴィが居た。
「リリィは…？」
郁はリリィの姿を探すように室内を見渡す。
「リリィには自室で休んでもらってる。さあ、立ってないで早く座って」
ラヴィに言われ、郁達は椅子に座った。
「先に、佐藤恭哉は保護出来なかった」
ラヴィは重い口を開き始めた。夕凪を見ると膝に乗せる拳をぎゅっと強く握っていた。
「他に佐藤奈々のような人間はいないか今第一支部が動いてる。もしもの為にチガネとユヅルに同行してもらっている」
「それで、あの奈々ちゃんは…」
「彼女の体内からこれが出てきた」
ラヴィは机の上にペトリ皿を置いた。ペトリ皿の中には赤黒い液体が入っている。
「彼女の血液だ。よく見てみるとわかるよ」
そう言われ、郁は机に置かれたペトリ皿を自身のところに引き寄せ、東雲も覗き込むように容器の中の血を見つめた。
「このスポイトには、人の細胞に近い物質が入ってる。これを垂らすと…」
七瀬はスポイトをペトリ皿に近付けると、ポトリと一粒垂らした。すると、液体が動き始めた。
「うわっ…！」
郁はその動く物体の正体がわかり、身を引いた。東雲も眉間にしわを寄せた。
「簡潔に言うと、このイトミミズみたいなものがあの子の体内に生息してるってこと。他者に感染する可能性は咳やくしゃみによる飛沫感染。飛んできた唾液や鼻水が目や鼻、口の粘膜を介してこいつらが体内に入り込み感染した可能性。２つ目は、ウイルスが付着した物や人に触れた手で目をこすったり、鼻や口を触ったりして感染する接触感染の可能性があると考えられる。正直このままだと真由のようになる可能性もある」
「…それを、奈々ちゃんの体内から取り除くことは出来ないんですか？」
ラヴィはふうと息を吐くと、ペトリ皿を下げた。
「ワンコくん、コレがあのジキル博士が作った代物っていうのが厄介なんだ。彼は他者から知識を盗んでその知識を盗まれた本人よりも上手く能力を使いこなすことができる才能の持ち主なんだよ。…悪魔に堕ちる前は万物の知識の神と言われた男らしいからね」
「…一つだけ彼女を助ける方法がありますよね」
先ほどまで黙っていた東雲が口を開くと、ラヴィの方をじっと見つめる。
「古来最強と語られた吸血鬼（ヴァンパイア）エリーゼの血契術を持っている貴方なら、彼女を助けることが出来るのではないですか…？」
一瞬しんと静まりかえると、ふっとラヴィが息を吐いた。
「…驚いた。まさかそこまで僕のこと調べられてるとは…賢い部下を持ってるね。七瀬」
「…いやいや、私も驚いたわ。部屋に籠って夜中まで分厚い本とかずっと読んでるのは見たことはあったけど…」
七瀬はそう言うと、嬉しそうにぐしゃぐしゃと東雲の髪を撫でた。東雲は不機嫌そうな顔をすると乱れた髪を直した。
「…もう知らないだけなのは嫌なので」
とぼそりとつぶやいた。
「それじゃあ、奈々ちゃんは…っ、」
「時間はかかるけど今の状態なら救うことは出来ると思うよ」
郁はほっと胸を撫で下ろした。
「だけど、みんなに一つだけお願いがある」
ラヴィは口元に人差し指を立てる。
「僕が彼女の病室から出てくるまで、誰一人と立ち入らないでほしい」
「え、どうしてですか？」
「彼女の治療には集中したいからね。申し訳ないけど…」
郁達はこくりと頷いた。


奈々の治療をするため、病室を移動することになった。奈々は変わらず目を閉じたままだが、前よりは息が落ち着いている。
移された病室は外からは中が見えないようにカーテンがかけられている。
「さて、そろそろ始めたいから部屋から出てもらえるかな？」
ラヴィは半そで半ズボンという姿で、首にタオルを巻いている。病室の机には大量のタオルと水が入るペットボトルが置かれている。
「ラヴィさん…奈々ちゃんをお願いします」
「うん、任せてよワンコくん」
ラヴィはブイっと郁にピースする。
「…ラヴィ、私も一緒にここに残っちゃ駄目か？」
七瀬はラヴィに近付くと手を握り、俯く。初めて見る七瀬の表情に郁はドキリとした。
「…僕の不在の間、七瀬には指揮をお願いしたい」
「お前も知ってるだろ。…私の鬼の力ならお前の負担を半減させれる…っ」
「…七瀬は本当に昔から心配症だよね、でも大丈夫だよ。むしろ君は部下たちを支えてほしい…頼んだよ七瀬」
「…りょーかい」
ぱっと七瀬は手を離すと、部屋を出ていく。郁もラヴィに頭を下げると病室の扉を閉めた。
七瀬はふうと息を吐くと、郁の方へ振り向いた。
「さてと、鈍ってた私も悪かったけど…さっきからうるさいよ」
七瀬は拳を広げると、郁の顔に平手を打ち付けようとした。
「え、はぁ…！！？」
郁は突然のことに身構えたが、七瀬の手は郁の顔を掠ると耳元でプチンと音がした。
「え…」
七瀬が手を開くと、何かが焦げた跡が残っていた。
「なんですか…それ」
「郁くん、多分ジキルにマーキングされてたよ。でも大丈夫つぶしたから」
「マーキング…場所とか特定されませんでしたかね」
「大丈夫っしょ、まあ、会話は漏れてたかもだけどね…それに、来てもらった方が叩きのめせるし好都合かな。私的には」
七瀬はにこりと笑うと、すたすたっと去っていった。
郁は病室の外で待っていた東雲と夕凪に近付いたが、二人は何か話しているようだった。
「ラヴィさんの事、知らなかった」
「あの書籍も施設から発見しました…でも、ページが破れてるところが多くて俺も全部は読むことが出来ませんでした。多分、調べていたんだと思います」
「そうか、破れたページに何が書かれていたのか…」
「わかりません。施設ももう許可が下りないと入れませんから…俺から七瀬さんに話しましょうか？」
「ああ、頼む」
「そちらは夕凪さんと郁さんだけで大丈夫ですか？」
「…リリィには行かせられないからな。私と郁だけでいい」
「わかりました。また報告します。それじゃあ、俺はここで…」
東雲は郁にも会釈すると七瀬の歩いていった先へ進んでいった。
「途中まで聞いてたと思うけど、七瀬さんの許可が下りたらすぐに向かうことになるから準備しておいて」
「わかった。…あのさ夕凪ちゃん。その、リリィは大丈夫なのか…？」
自室で休んでいるだけだとラヴィは言っていたが、夕凪の顔を見ると何かあったことは薄々気づいていた。
「…郁、アンタにも話さないといけないとは思ってた。でもなかなか上手く切り出せなくて…リリィが人狼だってことは知ってるよな」
「うん、本人から聞いたけど…」
「人狼って言っても種類があって…リリィは特に希少価値がある白銀の人狼だった」
「白銀の人狼…」
「最も戦闘能力が高くて、ごく稀にしか誕生しない幻の人狼。その美しさに昔の人は神の使いだとか言われてたそうよ。でも、その美しさではなく高い戦闘能力に目をつけて利用できないかと目論む人もいた。リリィは幼い頃に攫われて、ある施設で育てられたの」
「確か、東雲くんもその施設の出身だって…」
夕凪はこくりと頷いた。
「烏天狗も珍しいからな。ノアの箱舟はその施設を調べてある場所に行き着いた。金持ちが育てた化物を殺し合わせる娯楽ゲームを楽しむ闘技場にな。…もうノアの箱舟でそこは壊滅させて、今拘束している奴以外には生存者はいないよ。その施設にジキルも潜伏していた。姿かたちは違ったけどね…」
「…そう、だったんだ」
「リリィにとってその過去はトラウマに近いんだよ。…東雲真緒と再会した後にジキルと接触したからな。それでまたあの施設に行くようなことがあったら多分リリィは…壊れると思う」
夕凪はそう言うと、視線を伏せた。郁も何と言えばいいのか分からず、沈黙が続く。すると、七瀬が郁達の下に進んできた。
「どうした。二人して暗い顔して…真緒坊ちゃんから聞いたよ」
「はい」
「それは…手がかりを探しに行くってことで良いんだよね？夕凪」
「…はい」
「……ん～、そっかぁ。とりあえず私はここを離れるわけにはいかないので私の代わりに適任者向かわせることにしたから。そうは言っても、許可が下りたのは２日間だけだからね。そこのところよろしくねぇ」
「2日だけでも有難いです。ありがとうございます七瀬さん」
夕凪は深く頭を下げた。
「出発は明後日。それまで二人とも休息十分に取ってね。これ上司命令だから間違ってもトレーニングルームとか行かないでね？真緒坊ちゃんにも伝えたけどあれは多分破りそうだから見張るけど…それじゃあ、よろしくー」
そして当日、集合場所に来た東雲はなぜか布団でぐるぐる巻きにされており、七瀬に担がれていた。

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		<dc:date>2017-08-08T17:05:28+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry13.html">
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		<title>10：something unusual【異変】</title>

		<description>コツコツとイヴの靴音が廊下に響く。紅い…</description>
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			<![CDATA[ コツコツとイヴの靴音が廊下に響く。紅い大きな扉の前には狐の様に目を細め笑う青年が腕を組み立っていた。
「よう逃げられたな。とりあえず無事でよかったわ、心配しとったんやでー」
青年はイヴの肩に手を置こうとしたが、彼女に振り払われる。
「気安く触らないでくださる？…よく、思ってもないこと言えるわね。あと貴方、藍の事助けたんだって？私も一応ピンチだったんだけど」
青年はイヴに振り払われた手をもう片方の手で擦ると、少し目を開きクスッと笑う。
「ホンマ可愛らしくもない女やね。…それに君回収するのニアくんだったしね。僕、関係ないもんー」
「…ちっ、あのガキ。…世檡様は？」
イヴは小さく舌打ちをすると、ふぅと息を整え青年に世檡の居場所を説いた。
「奥の部屋に新入りくんと一緒にいるんじゃない？これから緊急会議やから」
「…エンマ。私、本当あの男大っ嫌い。不愛想だし、しゃべらないし…ずっと世檡様と一緒にいるし」
「そうそう、エンマくん。彼、世檡様のお気に入りだよねー」
「あの男が来る前は世檡様の隣は私だったのに！ムカつく…」
「…君って結構妄想癖あるよね。まぁ、おもろいからええけど」
青年は目を細めながら言う。イヴは先ほどよりも深く舌打ちをつき、「どきなさいよ」と言って青年を押し退けると紅い扉を開いた。
扉を開くと部屋の中心にビンテージ長机が置かれており、周りの壁には絵画が並んでいる。テーブルには紅茶が注がれたティーカップ、スコーンやケーキ、マカロンが乗ったスタンド。紅茶からはほのかに薔薇の良い香りがする。
テーブルの奥には紅茶が入るカップに口を付ける世檡が座っていた。
イヴは世檡を見つけると駆け寄り、膝をつく。
「あれ？おかえりイヴ。どうしたの跪いて…？」
「只今戻りました世檡様。申し訳ございませんノアの箱舟の邪魔が入りました。私どんな罰も受けますわ」
「うーん、でも予定よりも大幅にクリアしているし大丈夫だよ？よく頑張ったね」
世檡はイヴの頬に優しく触ると、可愛らしく笑う。
「ありがとうございます…！これからも精いっぱい世檡様に尽くしますわ…」
イヴは歓喜すると、自分の指定の席に座り、紅茶を注ぎ飲み始めた。
「イヴさん」
イヴは声のした方に目線だけを向ける。
「…あら、藍。貴女傷だらけじゃない。まぁ、あの魔女が相手だったものね。しょうがないとは思うけど…」
「すいません。我を忘れてしまい…敵に捕まるところでした」
「…本当よ。次こそ仕留めなさいよ…」
藍はぺこりと頭を下げる。すると次の瞬間イヴの顔にカップケーキが直撃した。
カップケーキはべちゃとクリームだけを残すと床に落ちた。
「藍お姉ちゃんだけのせいじゃないし。責めるなよな！！」
マッシュヘアで身長が140センチほどしかない少年がイヴに向けて大きく舌を出した。
そして藍の側に向かうと後ろから抱き着く。
「なにすんのよクソガキ！！」
「あっかんべーだ。藍お姉ちゃんあっちでお菓子食べよ？僕、食べさせてあげるー」
「あ、うん。すいませんイヴさん」
「ちょっとニア待ちなさい！！アンタ私回収するんじゃなかったの？世檡様の命令で」
「藍お姉ちゃんのこと傷つけたから、助けるの嫌だったんだもん…」
少年は頬を膨らますと、つぶやく。
「はぁぁ？」
「それに追いかけっこ楽しそうだったじゃん。僕のポぺちゃんはずっと見てたよ」
ニアは獏のぬいぐるみを指指すとふふんと笑った。
「…はぁ、本当ガキって疲れる。もういいわよ」
イヴはため息をつくと、ニアを追い払うように手を振った。
「さてと、みんな揃ったかな？」
世檡は各々が席に着くのを確認すると、口を開いた。
「ノアの箱舟のおかげでデッドが消滅してだいぶ計画に遅れを生じてるんだよねー」
「…感情が芽生えるデッドは危険だと思います。計画にも支障をきたすと思われます。」
藍は手を上げると、意見を発する。
「まあ、僕も正直予想外で驚いたけどね。まさか感情が芽生えちゃうとは思わなかったから。…そうだ、薬の製造順調？ジキル」
「まだお試しやけど、少なからず症状を現してる被験体はいますわ。あの女の知識をこてんぱんに調べたおかげで体内に入っても害することもなくデッドを製造できますよ」
ジキルと呼ばれた青年は細い目を薄く開き、にこっと笑う。
「流石ジキルだね。ありがとう」
「褒めてもなあんもでまへんよ。あんはんの計画は僕としてもおもろいからなぁ。協力しますよ」
「そう？ニアもかな？？」
お菓子に夢中のニアは声をかけられるとは思わず、口にお菓子を詰め込んでいた。お菓子を飲み込むと急いでカップに入った飲み物をすする。
「…うん？うん、僕も同意見だよ…？これで合ってる？藍お姉ちゃん…」
ニアは隣に座る藍の方に眉を下げながら顔を向ける。顔を向けられた藍は困ったように笑う。
「ニア。ごめんごめんお菓子お食べ？」
世檡はくすくす笑うと、ニアはほっとした顔をするとまたお菓子を食べ始めた。
「さてと、ワイ出かけても？これから診察なんやわー」
ジキルは席を立つと出口のドアの方へ進む。
「いいよ。期待してるねジキル」
扉は静かに閉まった。



夜は静かに過ぎていく。
「ワン！ワン！グルルル…」
「ちょっと、どうしたの？ジョン。そんな大きな声出して…あら？どうしたんです？こんなところでうずくまって…」
道の真ん中にうずくまる青年を見つけ、近寄る。ジョンはずっと吠えたままだった。
「…気分が悪いの？救急車呼びましょうか？こら！ジョン！鳴かないの！！」
「……」
ワンワン！！と声が響く。青年の肩に手を置いた瞬間、血しぶきとジョンをつないでいた手綱が切れる。
ぐちゃ、ぐちゃと内臓がつぶれる音、骨がぼきっと軋む音も聞こえる。ジョンはくぅーんと鳴くと、後ずさりをする。
「…おなかすいたよ」
青年は立ち上がり空を見るとつぶやいた。
がやがやと笑い声やお酒の匂いやたばこの匂いが充満する。
「岡田さん。この子先日入った新人の美咲希ちゃんです。仲良くさせていただいてもよろしいですか？」
「はははっ！またまたかわいい子入ったねぇー！！美咲希ちゃんおじさんの隣おいでおいで！」
高級なスーツに身を包み、腕には高そうな時計をつけている。頬は赤くなっており、だいぶ飲んでいるのが窺える。美咲希は隣に座るとグラスに氷を入れ始める。
「美咲希ちゃんは何歳かな？？」
男は他のキャバ嬢や客に見えないように美咲希のスカートに手を入れると太ももをいやらしく触る。
「…２４です」
「いやいや、まだ高校生くらいじゃない？高校生がこんなところでバイトしてていいのかなー？そんなにお金に困ってるならさ、おじさんいい所教えてあげようか？」
「…いい所ですか？」
「おっ、美咲希ちゃん乗り気だね！どうする？今日行っちゃう？？」
「…22時に上がりますので、近くのカフェで待っていてくれませんか？」
美咲希は周りに聞こえないように男に耳打ちする。男は満足そうに美咲希の手を握る。
美咲希が店から出ると先ほどの男が向かいのカフェにいた。男は美咲希に気づくと店を出て、美咲希の肩を抱くとホテル街に進む。
少し高めなスウィートルームに案内されると、男は美咲希をベッドに座らせる。そして、服を脱がし始めた。
「美咲希ちゃん嫌がらないね。もしかしてはじめてじゃないのかな？？」
「…岡田さんは、ご家族は…？」
「ん？…妻とまだ中学生だが息子がいる。まぁ、妻とは離婚調停中だがね…。そんなつまらない話はせずに楽しもう。美咲希ちゃんの好きな金額を言ってもらって構わないよ？」
「…お金は要りません。私、お腹が空いてるんです。今日はまだ食べてないから」
美咲希は岡田の腕を掴むと、にこっと笑った。
「食事は後で持ってきてもらおう。何が好きなんだい？」
「私、お肉が好きなの。一番好きなのはね、貴方みたいな人よ」
腕はぐちゃぁと鈍く潰れた音がし、岡田は痛みで声を出そうとしたが、開いた口へ美咲希の手が突っ込まれる。
「あがぁが…！！！？」
「岡田さん、貴方に大切なご家族がいるのならやめておこうと思ったの。でもよかったー」

部屋中にぐちゃ、ぐち、と肉を噛む音が響く。
「やめてよ…なんでよ…やめて！！近づかないで！！！いやっ、ぐががぅぅっつ？！」
彼女の腹が潰れ、骨と内臓が飛び出る。彼女はまだ息があるのか、ひゅーひゅーっと息を吐く。
「あやぽん。大人しくしてくれよう…間違えて握りつぶしちゃったじゃないかぁ…。あやぽんがいけないんだよ？ぼく以外の男に色目使うから…」
「見つけました。一足遅かったです…。被害が広がらないよう駆除します」
郁は男の頭に銃を突きつけると、引き金に指をかける。
「おやぁ？君は誰だい？？もしかしてぼくのあやぽんに近付く悪い虫かなぁ？？ぼく強いから君みたいな小柄な子なんて…あれぇ？」
銃弾が頭を貫き、そこから砂の様に崩れていく。郁は次に同じように胸、足に銃弾を浴びせる。力をなくした手から彼女の身体が床へ落ちる。
「…ごめんなさい。もう少し早ければ…ごめんなさい…」
彼女は「痛い…痛い…」と繰り返すが、少しずつ声が小さくなっていく。

「河上武志。35歳。大のアイドル好きで年中アパートの自室に籠っていたようです。外出と言っても近くのコンビニやアイドルのコンサート等で、それ以外は姿を見た方はいないようです。その証言は近所の住民やコンビニ店員に確認済みです。アパートには6ヶ月前に越してきたようです。被害者の白崎綾音。１８歳。地下アイドル【スノー・ホワイト】に所属しており、当時はそのクループのコンサートライブがあり白崎綾音は次のステージの小道具を楽屋に忘れてしまい取りに行くと同じメンバーの藤崎美雪に伝えたそうです。戻った楽屋で河上武志と接触し、襲われたのだと推測されます。以上です」
郁はそう言うと、席に座り直す。隣に座っていた夕凪は郁を見つめると瞬きを繰り返し、リリィはポカーンと口を開けている。
「…なんと言うか。さすが元刑事さんだよね。ワンコくん。情報収集が早いというか、正確だし。この資料とかも作ったの…？」
ラヴィは資料を手に取ると、ぺらぺらとページをめくる。
「え、はい。パソコンとかはユヅルさんに借りて…」
「まって？ユヅルくんパソコンなんていう高度な機械持ってるの？？」
リリィは驚いたような声を出すと、ユヅルの方を見る。
「高度って…リリィが機械音痴なだけでしょう。いや、でも僕もすごいと思うよ。ここまで分かり易くまとめられてるのは」
「いえ、ありがとうございます。ずっと新人の頃は書類整理が主だったので…」
「さて、次は夕凪だよ」
夕凪は席を立つと、ふうと一息つくと話出した。
「…都内ホテルにて変死体が見つかり、部屋の中に残っていた香りでリリィに追ってもらい殺すことはできました。…ただ、」
夕凪は言葉を濁す。リリィはそんな夕凪を見ると口を開く。
「デッドじゃなかったの…」
「どういうこと？」
ラヴィはそういうと、リリィの次の言葉を待つ。
「デッド独特の血の匂いもしないし、体のどこも変異してなかったの。自分の生命の危機の可能性もあるのにこっちに攻撃も仕向けて来なかったの」
「…デッドにしては、あっさり過ぎたんです。今までデッドを斬ってきましたけど、こんなに後味が気持ち悪いの初めてですよ…」
「…つまり人間だったってこと？それをしっかり判断もせず斬ったってことでいいのかな？」
ラヴィの深い低い声が部屋の空気を一瞬にして重くなる。郁はラヴィの方を見れず、膝に置く拳を握り直した。
「人間でもなかったよ。夕凪が回収してきた彼女からしっかりと残ってたよ。ホテルで見つかった変死体の肉片。腹の中からね」
部屋のドアが開くと、七瀬が入ってきた。　
「デッドは1度肉体が死んでから蘇った状態ですので独特な匂いはしますが、彼女は人間の状態のままデッドのようになったのだと思われます。」
七瀬の後に部屋に入ってきた少女は淡々と言葉を続ける。少女は七瀬の所属している第五支部のメンバーで、七瀬の後から派遣されていた。
「すいません。ご挨拶をまだしていない方もいましたね。私はチガネと言います。【火車】です。見た目は幼いですが七瀬さんより年上です」
チガネは頭をぺこっと下げる。
「【火車】って、あの昔からいる妖怪ですよね…あまり詳しくはないですけど」
「はい。多分死体を奪う妖怪みたいに言われてますが、そんな物騒なこと私はしませんのでご安心を」
郁の言葉に淡々と答えると、ラヴィの方へ向きなおす。
「簡潔に言うと彼女は半分人間だったってことです」
「半分人間…」
ラヴィは深く唸る。夕凪や郁達も言葉が出て来ることがなく、しんと静まりかえる。
「正直今回の件。上層部のお偉いさん達は責任取りたくないんだか、判断はラヴィ…あんたに任せるってさ」
七瀬は乱暴に椅子に座ると、はあっと大きくため息を天井に向けて吐いた。
「…半分人間って、どうすればいいんですか。第一なんでそんな状態になったんですかね姫川さんって人は…」
「…とりあえず、鉢合わせたら一度保護して。そのあとの判断は…考える」
ラヴィはそう言うと、ごめんちょっと先に席外すね。と言い、部屋を出ていった。
「…私は、デッドと同じくすぐに殺した方がいいと思うけどねぇ」
七瀬はぽつりとつぶやく。
「半分人間だとしても、デッドと同じく人間を襲ってる。…保護したとしてもデッドと主食が同じだってこと自体で危険な存在なのは変わりないからね。それに保護したとしても、元に戻るなんて保障がない限り生かすなんて無理よ」
「…」
「本当、上層部の連中は都合悪くなるといつもこうだよ…。とりあえず今はラヴィの言うように保護。判断こっちで仰ぐからすぐに連絡すること。よろし？」
七瀬はにこっと笑う。「それじゃあ、解散ー」と言うと、部屋を出ていった。
「こんにちわ。私はリリィです！以後お見知りおきを！」
リリィはチガネに近付くと、握手を求める。
「リリィさんは戦闘能力が高いとよく耳にしました。いつか手合わせ願いたいです。よろしくお願いします」
チガネは手を自身の服で一度拭くと、差し出された手を握った。
「チガネちゃんはどんな武器で戦うの？」
郁も少しだけ興味があったため、会話の様子を窺った。
「私は、これを使うんです」
チガネは自身の髪についていた歯車型のアクセサリーを手に取ると、郁たちにも見える位置まで移動した。
「この歯車、今は手の平サイズですが、戦闘時は倍になります。今は発動はできませんが、自由自在に火を操ることができます」
少量なら出せますよ。と言うと、手の平に乗っている歯車は浮くと、ゆっくりと廻り出した。微かだが、綺麗な青い火が灯されていく。
「…よく、七瀬さんやもう一人の仲間に煙草の火種に便利だと。よく使われるんですけどね…」
はははっと、チガネは浅く笑った。
「そういえば、チガネちゃんと一緒に来た人見てないね。私、まだ会ってない気がする…夕凪ちゃんと郁くんは会った？？」
「俺も会ってないけど…」
「八百（やお）さんか？もう一人の配属されたのは…？」
八百さんとは、七瀬さんの所属する支部で最も長く在籍している方で七瀬さんとも互角でやり合える人だと夕凪から聞いていた。
「いえ、八百さんはお留守番です」
「そうか…来てたら手合わせお願いしたかったんだが…」
夕凪は残念そうにふうと息を吐いた。
「そのかわりに東雲という者が来てます。…あの子、皆さんにまだあいさつしてないんですね。すいません」
チガネは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、チガネちゃんが悪いわけじゃないから。えと、東雲ちゃんでいいのかな？どんな子かねー」
「そうだね。…早めには会っておくべきだな。今からでもあいさつに行くか…。二人はどうする？」
夕凪は郁とリリィを顔を向ける。
「俺も行くよ。一応これから一緒に戦うわけだし」
「私も行くー！！」
「多分、この時間帯はトレーニングルームにいると思いますよ」
チガネは壁にかかる時計を見ると、ドアの方に指を指した。
部屋を出ると、郁たちは東雲がいるであろうトレーニングルームに足を進めた。
「それにしても…色んな設備あるんだね。ノアの箱舟内って…」
「まあ、一応はな。あとは七瀬さんが何年か前に作ったリラクゼーションルームもあるし、温泉もあったな。あとサウナとか…」
「え、温泉湧いてるの？ここ…」
郁は驚きで、隣に歩くリリィに顔を向けた。リリィは人差し指を唇に置くと、「そこは諸事情って感じだよ」と言った。
そういえば前に男湯の暖簾と女湯の暖簾交換しておびき寄せたみたいな話をしていたな。どこか違う場所だと思っていたが、内部の施設だったのだなと郁は一人で納得した。
トレーニングルームに近付くと微かにランニングマシーンの音が聞こえる。部屋をのぞくと後ろ姿だが頭にタオルをかぶり、走っている小柄な姿があった。
「東雲さんって彼かな？なんか声かけづらいね…どうする夕凪ちゃん」
郁は夕凪の顔をじっと見る。夕凪も少し考えた顔をすると、ふうと息を吸うと吐いた。
「…邪魔しちゃ悪いしな。あとにするか…」
「そうだね。じゃあ、行こうか。…リリィ？」
夕凪と郁はその場を離れるように歩みを進めるが、リリィはじっとその場を動かず、東雲を見つめていた。
「リリィ？どうした…」
「真緒…ちゃん？」
郁はリリィの顔を覗き込むと、リリィは目尻に涙を溜め、震え出した。
ランニングマシーンが止まる音が響くと、東雲はマシーンから降り、頭の上に置いてあったタオルで体を拭き、郁たちに視線を向けた。
「…リリィ？」
東雲はリリィを見ると、驚きで目を見開いた。
「よかった…真緒ちゃん。大きくなったね…！」
リリィは嬉しそうに東雲に近付き、手を伸ばすが、東雲はその手を強く払いのけた。
「…触んな。偽善者」
東雲は低い声でリリィに吐き捨てると、近くに置いてあった水の入ったペットボトルを乱暴に取るとリリィの横を通り過ぎようとした。
「ごめんなさい真緒ちゃん。ずっと、謝らなくちゃって…！真緒ちゃんに会ったら謝らなくちゃって…ずっと、ずっと思ってて…！！」
リリィは東雲の腕を握るが、東雲は同様に払いのける。
「五月蠅い。まさか本当にお前がいるなんてな。最悪だよ。その面、もう見せんな。謝罪なんて要らない」
「そう、だよね。ごめんね真緒ちゃん。でも、また会えてよかったよ…」
「…俺は、会いたくなかった」
東雲は入口付近にいた郁と夕凪にぺこっと頭を下げると、トレーニングルームを出ていった。
少しばかり、重たい空気が漂う。リリィは眉を下げると、夕凪と郁ににこっと笑顔を向ける。
「…うんと、真緒ちゃんは同じ施設で育った仲で、ずっと前に、疎遠になってたから姿見るまで分かんなかったー…」
「・・・そうか。あの施設の出身か東雲ってやつも」
夕凪は東雲が去った廊下の方に視線を向ける。
「いや、でもなんか感じ悪い子だったね。リリィに向かってなんていうか、ひどいっていうか…」
郁は東雲に払いのけられたリリィの手を見る。少しだけ赤く腫れていた。
「東雲、真緒ちゃん。私より3つ年下だよ。烏天狗さんで、黒い羽根が綺麗なんだよ。甘党でね、ぜんざいとか大福とか、和菓子が好きで…よく、昔は笑う子で…優しくて…私は、もう多分真緒ちゃんとお話出来ないと思うから、郁くん、夕凪ちゃん仲良くしてあげてね…」
「…うん」
リリィと東雲の間に昔何があったのか、郁は気にはなったがリリィがつらそうに笑うので、それ以上は聞くことができなかった。

・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－・－－・－・－・－・－・－・

「本当にこのあたりなの？」
夕凪はあたりを見渡す。
郁達四人は古びた商店街に来ていた。まだ昼間だというのに多くの店はシャッターは閉じられたままになっていた。
「この商店街の近くで、女性の変死体が見つかったらしいです。もう死体の方は身元不明とのことで警察の方で回収はされているようですが…」
チガネは一枚の写真を郁達に見せる。写真には顔の半分がなく、残っている顔も判別がつかない程損傷していた。
「リリィ。なにか匂い残ってるか？」
リリィは大きく鼻で息をするが、微妙な顔をした。
「色んな匂いが混じってるから、何を言っていいのか…。デッドの匂いはしないけど、ほのかに柑橘系の匂いと、あと動物の匂いがする。多分犬だと思う」
「リリィさん。この匂いですか？」
チガネはジッパーの袋を開くと、薄い緑の首輪を取り出す。首輪の横には花の形をしたキーホルダーがちょこんとついていた。リリィは顔を近づけると、うなづいた。
「現場の近くにありました。首輪の端に少しだけ血がこびりついていたので、回収しておきました」
「…純粋に疑問だったんだけど、ノアの箱舟って情報が入るの早いよね。この写真も警察に回収される前に撮ったわけだし…現場に警察関係者でもないのにうろついてたら怪しまれないものなのかな…なんて」
「怪しまれるわけないだろ。上層部の人間なんだから」
夕凪はきょとんとした顔をして、郁を見る。
「上層部の大体の人、警察関係者だよ」
リリィもこてんと首をかしげる。
「え、初耳なんだけど…」
「今言った。正確にはデッドの存在を知ってる一部の人間だとは思うけどね。私もそこまで知らないから詳しくは話せないけど。だから現場にうろついてても怪しまれないってことだよ」
郁は疑問が残ったが、上手く頭でまとめることが出来なかった為、言葉にするのをやめた。
「なんというか、少し前まで警察関係者だったけど、知らないことも多かったんだな…」
郁は遠い目をしたが、夕凪はふっと息をする。
「…郁、あんた警察関係者って言ってるけど、まだ入りたての新人警察官だったじゃん」
「…うん。はい。そうでした」
「大丈夫だよ。郁くんはノアの箱舟でも期待の新人さんなんだから！！」
「うん、リリィちょっとフォローになってないかな…」
一瞬遠い目をした自分自身に恥ずかしさを覚えた郁だが、何かに気づき体を反対方向へ向けた。
「何か、聞こえない？」
「…あっちだ」
夕凪が指さす方向に郁達は急いで走り出した。
「三人とも、先に行く」
郁は屋根に飛び乗ると、速度を速めた。屋根と屋根を飛び越えると、見えてきたのはデッドに追われている少女だった。

少女はバランスを崩すと、地面へ倒れ込んだ。後ろから鋭い爪が伸びてきて、少女は来るであろう痛みに固く目を閉じた。
銃声と微かな煙の臭いがし、痛みが来ないためそっと目を開ける。
「大丈夫？」
郁は肩で息をすると、少女の目線まで腰を下ろした。
「あ…、」
少女は先ほどまでの恐怖に全身が震え出し、声が出ない。そんな少女の手に郁は自身の手を重ねる。
「…大丈夫だから。よかった。君を助けられて…」
「郁！！無事か？！」
少し遅れてきた夕凪が郁と少女の姿を見ると、ほっと胸を撫で下ろした。
「君、立てそうですか？」
チガネは少女に声をかけるが、少女は震えているためかうまく立つ動作が出来ないでいた。
「…俺の首に腕まわせる？」
少女はこくんと頷くと、震える腕を郁にまわすと、郁はひょいと少女を抱きかかえた。
リリィは「はぅ」と言いながら、キラキラした目を向ける。
「ごめんね。少し我慢してね」
「…おうじ、さま」
「え？」
少女はそう言うと、郁の首に顔をうずめた。

ノアの箱舟に戻ると、少女を医務室のベッドに座らせた。
少女は少し落ち着いたのか、先ほどより顔色が良い。しかし、やはり不安なのかぎゅっと郁の服を握っている。そのため、郁も隣に座る形になってしまっていた。
チガネは少女の足の擦り傷の処置をてきぱきする横でリリィは夕凪に「やっぱり男の子だよね！！お姫様だっこなんて絶対少女漫画でも恋に落ちちゃうパターンだよ！！ねぇ、ねぇ夕凪ちゃん！！」とキャーキャー言いながら小さな声で騒いでいた。
夕凪は少女に向かって口を開く。
「私は夕凪だ。貴女にをさっき襲っていた化物（デッド）を撃退しているの。貴女を無事に家に送り届けるから心配しないで」
少女はこくりと頷く。
「…お姉ちゃん達はさっきの人達にいっぱい出会ったことあるんだよね？あの、ね」
少女は言葉が飲み込むと、うつむく。郁の服を握る手が微かに震えた。
「お兄ちゃんが、変なの…あの日から前のお兄ちゃんじゃない気がして…、お兄ちゃんを助けてほしいの」
「お兄さんが、変？その話、詳しく聞いてもいい？」
少女は郁の顔を見ると、こくりと頷き、口を開く。
「お兄ちゃん、昔から体が弱くて、どこの病院に行っても良くならなくてね。隣町の大きな病院が出来たらしいって話をご近所の人からお母さんが聞いて、もしかしたらよくなるかもしれないからってお母さんがお兄ちゃんに勧めて行ってきたの…」
少女は佐藤奈々と名乗った。奈々の兄　恭哉はその病院から戻ると以前と比べて食欲も増し、明るくなったという。
「でも、お兄ちゃん。あの日から時々冷たい顔をしたり、夜こっそり家を出たりするの…お母さん達はお兄ちゃんのことは心配しないでって私に言ったけど、でも私…っ」
「親御さんが、奈々ちゃんにそう言ったのはいつ頃？」
「…一週間前」
「それで今日はどうしてあの場所に？」
「お兄ちゃんが今日、病院の再診に行くの知ってたから、絶対何かあるんしゃないかって、思ってそれでお兄ちゃんの後を追ってたら、あの人に襲われて…」
「その病院。案内できるか？」
夕凪の言葉に奈々はこくりと頷いた。


隣町の病院は最近新調され、クリーム色を基調とした建物だった。緑が多く、患者の子供だろうか広い芝生でボール遊びや追いかけっこをしている。
自動ドアが開き、郁達は奥の受付へ進む。
受付では、まだ真新しい名札を付けた女性が座っていた。
「すいません。こちらに佐藤恭哉さんを診られている先生は本日ご在籍ですか？」
「えと、排戸先生でしょうか？本日はどんなご用件で…」
「彼女、佐藤恭哉さんの妹さんなんですが、お兄様とはぐれてしまったと聞いたもので、佐藤恭哉さんを診られている先生のところにいるんじゃないかと思いまして」
「そうですか…排戸先生でしたら」
受付の女性に場所を聞くと、エレベーターに乗る。扉が閉まると、夕凪は口を開く。
「…リリィ。なにか匂う？」
「ううん。特に特徴的な匂いはしないよ。デッドはいないと思う」
エレベーターは指定された階につくと、ゆっくりと止まり、扉が開いた。壁には内科、耳鼻科、呼吸科と矢印がふってある。歩みを進めると、排戸と札が下がっている病室の前に立つ。
扉に手をかけようとしたが、扉が開き、学生服を着た一人の少年が出てきた。
「お兄ちゃん…！」
奈々は少年に抱き着く。少年は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「奈々？どうしたついてきちゃったのか？」
少年は奈々の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「あれ？もしかして恭哉君の妹さん？」
恭哉の後ろから白衣を纏った女性が顔を出す。首から下げられた名札には排戸と書かれている。
「そうなんです。先生、こいつが俺の妹の奈々です」
排戸は髪を耳にかけるしぐさをすると、奈々の目線まで姿勢を下げ、にこりと笑った。
「はじめまして奈々ちゃん。私、恭哉君の担当をしている排戸って言います。ふふ、恭哉君の話に聞いた通り可愛らしい子ね」
「…」
奈々は少しこわばった顔をし、恭哉から離れると郁の後ろに隠れた。
「えと、貴方達は？」
排戸は首をかしげると、郁達の方を見る。
「お兄さん達は、私が病院の場所がわからなくなっちゃって、案内してくれたの！」
奈々は排戸に咄嗟に言い、郁もそれに続いて頷いた。
「…そうなの。恭哉君、次回の診査の日だけど下の階の受付でしてね」
「はい。ありがとうございました」
恭哉はぺこりとお辞儀をすると、エレベーターの方に向かう。郁達も後に続いた。
排戸はエレベーターの扉が閉まるまで、じっとこちらを見つめていた。
エレベーターが下の階につくと、恭哉は会計をしに、受付に向かう。奈々は郁の側から離れないでいた。
「奈々ちゃん。どうしたの？」
郁は小さな声で奈々に話しかけた。
「…帰りたくない」
「すいませんお待たせしました」
会計をおえた恭哉は郁達に近付くと、奈々はうつむき言葉を詰まらせた。
「今日はありがとうございました。もう大丈夫ですので、奈々帰ろう」
恭哉は奈々に手を差し伸べるが、奈々はぎゅと郁の服を握っていた。
「…途中まで送るよ。外もだんだん暗くなってきたし、ね」
郁は恭哉にそう伝えると「…そうですか。ありがとうございます」と言った。

夕日に照らされ、ゆらりゆらりと影が揺れる。
「先生にはすごいお世話になってて、今までは放課後になると体が怠くてしかたがなかったのに全然疲れないんです」
恭哉は横に歩く郁に向かって嬉しそうに話していた。郁の反対側には奈々がぴったりとくっついていて兄妹に挟まれる形となっていた。夕凪とリリィはその後ろを歩く。
「あと、すっごく腹が減るんです。三食ちゃんと食べてるんですけど、夕飯食べた2時間後にはお腹鳴っちゃって…でも、朝起きると満腹感がするんですよね。逆ですよね」
恭哉は、ははっと笑うとお腹をさする。恭哉は歩みを止めると、郁達の方へ顔を向けた。
「お兄さん達今日はありがとうございました。ほら、奈々行くよ」
いつの間にか彼らの家の前に着いていたらしい。一般的な二階建ての暖色的な家だった。玄関には可愛らしい小人の人形が置かれている。
この置物ってお伽話の白雪姫の小人だよね？」
「はい、母が好きなので。ほら、奈々お兄さん達帰れなくなっちゃうだろ？」
「…うん」
奈々はおずおずと郁の服から手を離すと、恭哉のもとまで歩んだ。
「奈々ちゃん」
郁は奈々を呼び止めると、奈々は振り向く。
「…俺たちにまだ言えないことあるかな？」
奈々が先ほど郁に言いかけた言葉がなぜか郁の中で引っかかっていた。奈々は言葉を詰まらせ、下を向く。
「…ないよ。今日は本当に助けてもらってありがとうございました」
奈々はにこっと笑うと、兄の恭哉に続いて家の中に入ってしまった。

「うーん…」
リリィは自身の鼻をつまんだり、手でこすったりしていた。
「どうしたの？リリィ」
夕凪はポケットからティッシュを取り出すと、リリィに渡す。リリィはそれを受け取り、鼻をかむとスッと鼻で空気を吸った。
「あの病院から鼻がおかしくてね。ずっと鼻の奥で何かの匂いが纏わりついてて他の匂いがわかりづらいの」
リリィはうーっと言いながら、もう一度鼻をかみ出す。
「わんわん！！！ぐるるる…」
一匹の犬が郁に向かって、吠える。少し毛皮が汚れていて首輪がついていないためノラ犬だろうか。リリィはその犬の前にしゃがむと、犬も大人しくなり腹をリリィに向けた。
「…この子だ」
「え…？」
「あの、場所にあった首輪の子と同じ匂いがする。柑橘系の匂いこの子から！！」
リリィは犬を持ち上げると、顔を近づけ、犬の身体の匂いをかむ。
「血の匂い。女性の…あと、奈々ちゃんの匂いがする」
郁は奈々の家に駆け出していた。空はだんだんと薄暗くなり、半透明な月が薄っすらと浮かんだ。
奈々の家に着くと、玄関先に近付く。ドアノブに手をかけると簡単に開いた。
「奈々ちゃん…恭哉くん？っ？！」
ばっと郁は鼻を口を塞ぐ。
「すごい臭いだな…」
郁の後ろにいる夕凪も同じく袖で鼻と口を包むと、つぶやいた。玄関には靴が散らばり、奥にはリビングへと続く扉と階段があった。郁達は音をたてないように、廊下を進みリビングのドアをゆっくりと開けた。
「…無残だな。死後、１，２週間か？」
リビングには壁と床に血が広がり、肉片が飛び散っていた。かたんと、音がすると郁の胸に何かが飛びついた。
「っ、奈々ちゃん！」
「うっ、ぐすっ、」
郁は奈々を抱きかかえた。
「助けて、お兄ちゃんを助けて…」
「何があったんだ？奈々ちゃん　この人たちは…」
「もういやだ。怖い怖いよ…！！私のせいなの！お兄ちゃんは悪くないの…！」
「落ち着いて奈々ちゃん。…恭哉くんは？」
奈々は玄関の外を指さす。夕凪とリリィはこくりとうなづき、外へ駆け出す。
「リリィ。彼の匂い追える？」
「うん！大丈夫。そっち！！」

家の中に取り残された郁は奈々の背中をさすると、優しく問いかけた。
「…俺に、何があったか話せる？」
奈々は息を落ち着かせると、口を開いた。
「お兄さん達が、あの化物みたいな人を殺せるって言ったから、そしたらお兄ちゃん殺されちゃうかもしれないと思って…私、嘘ついた」
「うん…」
「本当は、体が弱かったのは私なの…病院に行ってたのは最初は私だったんだ」
「え…？」
郁は驚き、奈々の顔を見る。
「排戸先生に会ったことはなかったんだけど、お兄ちゃんが付き添ってくれて病院で看護師さんに注射をしてもらってね、そしたら体が楽になって来たんだけどそれから一緒にいたお兄ちゃんの様子がだんだんおかしくなってきて…最初は生きた鳥の死骸だった」
奈々の両親も息子の変わりように、日に日に恐怖を感じていたという。昼間は今までの息子のままなのだが、夜が近づくと、様子がおかしくなってきた。それが何か月も続き、二週間前には昼間同級生の腕を噛み怪我をさせたそうだった。
「お母さんがお兄ちゃんを迎えに行った後、家に戻ってきてお父さんに話してるのを聞いちゃったの…。同級生の腕にはくっきり歯形が食い込んでいて、もう一足遅かったらちぎられていたかもしれない深さだったって…」
「…リビングにいるのは、ご両親？」
奈々はこくりと頷く。郁は、もう一度リビングに目を向ける。
「朝、お兄ちゃんの服や口元には血がついていて、昨夜どこに行ってたのか聞いても、お兄ちゃん覚えてないって言うの。それで、一週間前にいつものように外へ出るお兄ちゃんをお母さん達が止めた…」
恭哉は暴れ出し、両親を襲い始めたという。奈々もその場にいたが、母親にリビングの外に出されたという。
「お母さんが扉を閉める前に言ったの、奈々心配しないで。お兄ちゃんの事は大丈夫だから奈々は寝室にいなさい。朝になるまで扉を開けちゃダメよって…！！でも、朝起きたら…っう」
朝起きて、二段ベットの下に眠る兄とリビングの光景を見た奈々はすべて理解したそうだった。幼い彼女にとってそれはどんな心境だったのだろうと、ただ郁は奈々の体を強く抱きしめた。
「林檎の保存方法知ってる？」
玄関の方から声が聞こえ、郁は顔を向けた。
「…貴女は、排戸さん？」
「林檎は特にエチレンガスを多く排出する果物なんだよね」
コキンコキンと関節が折れる音がし、排戸の姿が変わっていく。
「その影響で、他の野菜や果物と一緒に保存しておくと他の果物が腐っていってしまうんよ」
ゴキンっと大きな音がすると、排戸はふうとため息をついた。
「どうも、お晩です。アルカナの強欲の悪魔ジキルええます。よろしゅうな～」
白衣姿にスラリと伸びた背。眼鏡には十字架のチェーンがつり下がっている。狐みたいな細い目はにこりと笑った。
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		<dc:date>2017-05-05T15:08:23+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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	<item rdf:about="https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry12.html">
		<link>https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry12.html</link>
		
				
		<title>０９,Succubus【色欲の悪魔】</title>

		<description>「神隠しみたいですね…」
郁はぽつりとつ…</description>
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			<![CDATA[ 「神隠しみたいですね…」
郁はぽつりとつぶやいた。
「デッドの目撃情報が入った場所に向かった第1支部の隊員達が忽然と姿を消して、連絡が一切取れない。その人達を探しに行った捜索隊の人も戻って来ないらしいよ」
ラヴィはやれやれと言いながら、回転チェアを回し始めた。それを見ていた夕凪はすぐさまラヴィの行動を阻止するとため息をつく。
「それで、こっち（第２支部）にその行方が分からなくなった場所へ行けと。そういうことですか？ラヴィさん」
「んー、まあ、そんな感じ。ちょっと夕凪。手離して、」
「ラヴィさん。ふざけないでください」
「こう、唐突に椅子回したくなるじゃない。ねぇ、二人とも」
「私も時々座ったとき回すよー」
リリィは元気よく同意したが、郁は夕凪の郁に向けた笑顔が恐くて苦笑いしかできなかった。
「今回は二手に分かれて行動してほしい。夕凪とワンコくんには例の場所の調査に行ってほしい」
「私と郁はこの前のデッド（心葉）が言っていた場所の再調査ってことね…」
心葉さんの行動を分析した結果、彼はある特定の女性たちをある場所に集めていたという。アルカナの目的は不明だが、皆、１０代から20代前半の女性でデッドと過去接触したことがある。または世の中で言う霊感と云うものがある女性だったらしい。現場に付いたときには大半の女性が亡くなっていた。それも身体中の血を抜かれた状態で。一命を取り止めた女性もいたが錯乱していて、話を聞くことができなかった。念のためノアの箱舟の管理下にある病院に入院している為、アルカラに襲われることは避けられるという。
「それで、第１支部の人間が消えた情報が入った場所には、リリィとユヅルに行ってもらいたいんだけど…」
「やっぱりね。珍しく呼び出されたから嫌な予感したんだ」
声がした方を見ると、脇に作成中のドールの部品を抱えたユヅルがドアを開け、入ってきた。
「今回はユヅルにも出勤してもらおうかと思って。君、部屋にこもりきりのくせに経費使うからって上層部がうるさくてさ」
はははーと笑いながら（被り物をしているため表情は分からないが）ラヴィはユヅルへ顔を向ける。
「…。わかりました。でも、一つ条件があります。夕凪か郁くんと一緒が良いです」
「えー、なんで？ユヅルくん私じゃ不満なの？？」
リリィは頬を膨らませながら、ユヅルの方へ歩みよろうとして「あれ？」と言い、立ち止まった。
「わー、動けるようになったんだ」
リリィがユヅルの後に入ってきた少女に視線を向けた。黒い長い黒髪を一つにくくり、服の裾からつなぎ目が見える。
少女はぺこっと可愛らしい笑顔で頭を下げる。
「幼さが残った可愛らしい顔立ちだねー」
リリィが少女の頭をなでると、少女をくすぐったそうに目をつむった。
「あの、彼女…あのときの少女ですよね…？」
ユヅルの部屋に行ったときに足に口づけをされていたドールだが、動いている姿を見た郁は驚きで瞬きを繰り返していた。
「ユヅルは作ったドールに自分の魔力を移して動かすことができるんだ。彼女も連れてくの？」
夕凪の説明で郁は少しだけ今の状況を納得することができた。夕凪の問いにユヅルは首を縦にふる。
「一応。この子は試運転で連れてく予定。前、リリィと一緒に組んだ時壊されたことあるからあんまり嫌だ」
「う、まさか手に取ってデッドに投げたものがユヅルくんのドールちゃんだとはあの時思わなくて…ごめんねユヅルくん」
「…ちょっとまだ傷が癒えない」
「うう…」
リリィはしゅんとうなだれる。
「うーん、それじゃあ、例の場所には夕凪とリリィに行ってもらって。ユヅルとワンコくんで情報が入った場所に行ってもらおうかな」
こんなに早く、ユヅルとペアを組む日が来るとは思っていなかった郁は少しだけ緊張の面持ちでいると、それに気づいた夕凪が郁の背中をぽんと叩く。
「不安そうな顔するな。郁あんたは目の前のものに集中すればいいから。そっちの件は頼んだ」
「…なんかやっぱり夕凪ちゃんって頼りになるね。ありがとう」
「…どういたしまして」
夕凪はふっと笑った。

郁とユヅルは例の第一支部の人間が消えた場所に来ていた。何の変哲もない街の一角の今は使用されていない市民ホールだった。新しく作られた市民ホールは隣町の市民ホールと統合され、すでに多くの市民が利用している。
扉は錆びてはいるが、少し力を加え引くと簡単に開いた。ユヅルが先に入り、そのあとに郁とユヅルのドールが歩みを進めた。
郁はちらっと後ろのドールを見る。
「あの、ユヅルさん。彼女はユヅルさんの魔力によって動いてるんですよね」
「そうだよ。気になる？さっきからずっとドールのことちらちら見てるけど」
「いや、普通の女の子みたいにほほ笑んだりするのであんまりドールっていう感じしなくて…」
「ありがとう。ほめ言葉と受け取るよ。反射的にほほ笑んだりするけど別に感情があったりはしないんだ。まぁ、この子は元々リリィに壊された子の部品を多く使っているからリメーク版なんだけどね」
「そうなんですね。ユヅルさんはいつもドールを使って戦闘されるんですか？」
「うーん、そうだね。僕戦闘あんまり得意じゃないからこの子にはサポートしてもらってるかな」
「そうなんですか。…そういえばユヅルさん魔力を抑えているって言ってましたよね。その、もしお話したくないなら無理には聞きませんが、なぜですか？」
「抑えているというか、閉じ込んでおかないといけないって言った方が正しいかな」
「閉じ込んでおかないといけない…？」
「…少し厄介でね。うーん、説明がちょっと難しくて…ごめんね。」
「いえ、俺もすいません。色々聞いてしまって…」
「別にいいよ。僕も郁くんに興味あるし」
ユヅルは歩みを止め、郁の手を引き寄せ、近くの部屋のドアを開くと、三人は隠れるように部屋に入った。
「…ユヅルさん、どうし、」
「しっ、小さいけど物音がした」
そういえば微かに足音がする。足音はどんどん近づいてくる。郁はドアの隙間から外の様子を伺った。すると聞き覚えのある名前が耳に入ってきた。
「佐伯先輩－！本当に村田はこの建物に入ってたんですってー！」
「まぁ、麻薬の栽培先にはうってつけだわな。千草とりあえず本部に連絡は入れとけ」
「了解しました！！佐伯先輩。俺、ゆとり世代ですけど結構できる後輩じゃありません？？」
「はいはい。わかったわかった。千草早く連絡しろ」
「はいっス～」
間違えなく、郁の上司だった佐伯さんだった。千草と呼ばれた２０代の男はきっと郁と猿間のいなくなった佐伯班に新しく配属された刑事だろう。郁は声が出そうになったがぐっと抑えた。目尻が少しだけ熱くなる。
「…下手に外に出れそうにないね。大丈夫？うつむいてるけど」
ユヅルは心配そうに郁を見つめる。
「…平気です。昔の上司で…ちょっとだけ悔しくて、」
本当はこのまま佐伯の前に出ていき、狗塚郁は生きています、猿間さんも生きてます。と、言いたかった。でも、きっとこの姿じゃ分かってはくれないだろう。
「千草。お前の手柄かもしれないな。微かだが甘い香りがする。この匂いは多分大麻だ」
そういうと佐伯と千草は建物の奥へ進んでいく。
「…後、追うよ」
ユヅルは郁に声をかけ、静かに二人の後を追う。
甘い匂いが奥に進むにつれ、強さを増していく。前を歩くユヅルが歩みを止める。
「ユヅルさん？」
「リリィを連れてこなくてよかったかもね。とりあえず、この匂い吸い続けない方がいいかもしれない」
そういえば匂いが強くなるにつれ、頭がふらふらと回る。まるで、大量の酒を摂取した後みたいな。
「…うっ」
小さな唸り声が聞こえた。
佐伯が壁にうなだれていた。
「っ、大丈夫ですか？」
郁はとっさに佐伯に近付く。佐伯の顔を見ると眉間にしわをよせ、熱っぽい顔をしている。
「…だれだ？」
佐伯は薄く目を開け、郁を見る。
「…あ、おれは」
口ごもる郁を見てユヅルは間に割って入る。
「すいません。近くの大学のオカルト部員でして、こちらの使われていない施設でツチノコの目撃情報がありまして、偶然鍵が開いていたもので入ってしまいました」
「オカルト部…？悪いがここは一般人が入っていいところじゃ…っ」
佐伯は苦しそうに頭を押える。
「苦しそうですね刑事さん。今から救急車呼びますので」
「いや、俺は大丈夫だ…っ、」
「大丈夫じゃないです。佐伯さん動かないでください」
「…なんで、俺の名前を君が知ってるんだ？」
「あっ…、えと、警察手帳ポケットから落ちていたもので、拾ったときに…」
郁は咄嗟に、佐伯の近くに落ちていた警察手帳を拾い、佐伯に差し出す。
「…そうか、すまない」
佐伯は警察手帳を受け取ると、胸ポケットにしまう。
「奥に俺の部下がいるはずなんだ、あいつ…急に走りだして…っ」
「とりあえず、貴方はここでじっとしていてください」
ユヅルはそう言うと、佐伯の瞼を手で覆う。すると、佐伯は力なく壁の方に倒れた。
「彼に僕の魔力を当てて、気絶させた。先急ぐよ郁くん」
「はい」
ユヅルと郁は先を急いだ。どんどん匂いが強くなり、微かに歌が聞こえる。
ホール奥の扉を引くと、異様な光景が飛び込んできた。

高く積み上げられた椅子、椅子、椅子。そして男、男、男。１０代～４０代と幅広い。男たちは皆虚ろな目をし、立っていた。
そしてその中心に一人の女性が積み上げられた椅子の上で木霊すように歌を奏でる。
美しい褐色の肌に長くきらめく銀髪。首から垂れる十字架のネックレスが微かな光に反射し、キラキラ光る。
「…あら？正気でいられる人なんて初めて見たわ」
彼女は郁達に気づくと、歌を止め、こちらに微笑む。
「でも、小柄な黒髪の坊やはちょっとふらついてるかしら？」
くすくす彼女は笑うと、すっと表情を変える。
「私の魅力にひれ伏さない奴なんて考えられない。侮辱された気持ちよ…」
彼女は郁達を指さすと、虚ろな目でいた男達が一斉に郁達の方を向く。
「後悔させてあげるわ」
その言葉を合図に男達は郁達に向かって襲い掛かって来た。よく見ると行方不明になっていた第一支部の人間やその人達を探しに行った隊員達もいる。
郁は攻撃を避けることしかできなかった。
「皆さん正気に戻ってください！」
郁の言葉に耳を傾けることなく、隊員たちはどんどん攻撃仕掛けられる。
「っ、くそっ、どうすれば…」
銃弾が郁の右脚を貫き、郁はバランスを崩してしまい床に倒れてしまった。頭上に影が落ちる上を向くとサバイバルナイフのような鋭いナイフを郁に振りかざそうとしている隊員がいた。
「あ、」
スローモーションの様に隊員の顔が見える。虚ろい目をしているが微かに声が聞こえる。
「…たす、けて…くれ」
ゴッと鈍い音がし、郁の前にいた隊員が倒れる。
「大丈夫？」
ユヅルが手を差し伸べ、郁は体を起こした。起き上がると鉄パイプを振り回し次々と隊員達をなぎ倒すユヅルのドール。四方から男達が襲い掛かるが、上手く攻撃を避け確実に攻撃を与えている。
「僕のドールすごいでしょう？まぁ、この動きは夕凪を参考にしたんだけどね。刀じゃなくて鉄パイプだけど」
「あの、彼ら…」
「うん？大丈夫。気絶させてるだけだから。郁くん撃ったさっきの若い刑事くんも気絶させといたよ」
周りの男達を全員倒すとドールはユヅルの元に駆け寄った。ユヅルはドールの頭を撫でると満足そうにドールはほほ笑む。
彼女は唖然と周りを見渡すと拳を震わせる。
「思い出したわ貴方。その眼鏡の奥のムカつくつり目とあの女のイヤリング…貴方、ノアの箱舟の魔女ね。それじゃあ黒髪の坊やもお仲間ってわけね」
「なにを企んでたかは知らないけど、色欲の悪魔アンタには聞きたいことが山ほどあるんだ。大人しく…」
「…魔女？」
天井からシスター姿の少女が郁達の目の前に降りてきた。
「君、あのときの…！」
宮下の研究所で郁達の前に現れた。
「…イヴさん。この人ですか？あの魔女はこの人ですか？」
少女はユヅルを指さし、イヴと呼ばれた色欲の悪魔に問いかける。少女は研究所で会ったときとは違い、言葉に緊張感が混じっているように聞こえた。
イヴは少し考えるような顔をした後、にこっと笑った。
「そうよ。貴女の探してた魔女よ」
「…そうですか」
少女は指を指していた手を下すと、次の瞬間袖の中からカードを取り出す。一瞬にして少女の前に大量の水が現れ、大きな黒い波を作ると猛スピードでユヅルに向かって襲い掛かる。その隙にイヴは郁達が入ってきたドアとは違う向かい側にあるドアからホールの外へ出ていった。
「ユヅルさん！！」
「面白い魔術使う子だな…。でも、攻撃に集中してると背後取られるよ？」
そうユヅルは言うと、郁の脇を抱きかかえると、波の来ない場所まで移動した。同時にユヅルのドールは鉄パイプを少女の背後から振りかざし、攻撃を加えようとしたが少女は上手く避け、袖からカードを取り出すとドールの胸に突き刺した。
すると、刺さった箇所からだんだんと黒い模様が広がっていき、ドールの動きが鈍くなる。
「…砂鉄か。そのカード興味深いね。微量だけど魔力感じるし」
「…か、さん」
少女は何かつぶやいたが、声が聞き取れない。
「…あの子の事は僕に任せて郁くんはあの色欲の悪魔からできるだけ情報を聞き出してくれ。正直捕まえるのは一人だと厳しいと思うから」
「そんなに強いんですか…？彼女」
「…厄介なのは間違いないよ。あの女は。僕でも一人で勝てる気がしないよ…頼むよ郁くん」
「でもユヅルさん戦うと言っても、ユヅルさん武器なんて…！」
「心配しないで。とりあえず最低限の魔法なら使えるからさ」
そう言うと、ユヅルは小さく何かをつぶやくと先ほど少女が放った水が渦の様にユヅルの方に集まる。
「初歩中の初歩だけど、君のこと拘束させてもらうね？」
渦を巻いた水はユヅルの指の動きに沿って、動くと少女に向かってナイフのように鋭く飛んでいく。少女も袖からカードを取り出そうとしたが間に合わず、両足、両腕に攻撃を受け、崩れ落ちた。
扉から出て行く郁から見ても、魔力の質が違うと一瞬で感じた。ユヅルは少女に近付くと少女の腕を取り、引き上げる。
少女はユヅルを睨みつけ、にやっと笑った。
「っ？」
ユヅルは少女を離すと、フラッとよろめき、後ろに下がる。
「…貴方気づいてなかったでしょうが、水の中に小さい毒蛇を紛れ込ませておきました。本当はさっきの攻撃で蛇たちに噛ませるつもりでしたが好都合でした」
少女はさっきまでのが嘘のように立ち上がると、ほこりを手で払い、袖からカードを取り出す。
「…お兄さんをなめないでもらえるかな？背後には気をつけないとね？」
「は…？げっほっ…！」
背後からユヅルのドールが少女の背中に勢いよく鉄パイプを振りかざすと少女はその衝撃で倒れ込んだ。
「同時進行は疲れたな…ドールに付いた砂鉄の分解。水の中にいた米粒くらいの蛇の除去。あと、彼女に気づかせないための演技。もう魔力あんまり残ってないよ、はぁ…、それにしても面白い子だな普通の人間に見えるけどあれほど魔術を扱えるなんて」
ユヅルは少女の近くに散らばるカードを手に取る、カードには「The Hermit」と書かれていて、暗闇のなかで杖を持った老人が明るいランプで闇を照らしている絵が描かれている。
「タロットカードか…」
ユヅルは散らばる他のカードを見たが、タロットカードはその一枚しかなかった。他のカードは女性が湖の水を壺に移し替える姿と水蛇の絵が描かれているものや、片手ずつに黒い砂と白い砂を持った少年の絵が描かれている絵や、太陽に向かう大きな鳥の絵が描かれたカードがあった。The Watery・The Earthy・The fireyとそれぞれ書かれている。
「触らないでください…」
少女は弱弱しく顔を上げる。ユヅルはふぅと息を吐く。
「…君、さっきの子じゃないね。君は誰だい？」
「…私は、」
少女の言葉を遮るように大量の医療用のメスが頭上から降ってくると少女とユヅルの間に壁を作った。
「えらい派手にやったなー、藍ちゃん」
白衣を纏った長身の男は地面に降り立つと、少女の腕を持ち上げ自分の肩に抱える。
「可愛い顔がボロボロやんけ。帰ったら手当せんとなー…」
「っ、世檡さんの指示ですか…？」
「そうそう。ほな、帰るで～」
男はうんうん、と頷くと次にユヅルの方を向く。
「あんさん、ノアの箱舟の魔術師でっしゃろ？」
男は狐みたいな細い目で笑う。
「…あんたは知らない顔だな」
「僕の顔見た人死んどるもん。知らなくてもしょうがないよ。僕、今日は戦いしに来よったわけやないからそない怖い顔せんでよ。…そうそう、あんさんのドールちゃんかわええね。僕と話が合いそう」
「…それはどうも」
「それやあ、またね」
男はひらひらと手を振ると、現れたドアへと少女を抱えたまま消えていった。扉が閉まると同時にユヅルは床に倒れ込む。
「はぁー…、ちょっとは体力つけないとな。もう動けそうにない。とりあえずラヴィさんに連絡して夕凪達呼んでもらおう…」

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「待て！！」
郁は廊下を駆ける。幸いこの建物の構造は分かっているため彼女を見失うことはなかった。建物は薄暗いのもあるが詳しくも知らない彼女にとっては進む先が行き止まりかなど分からない。
案の定彼女は行き止まりに差し掛かってしまい観念するように立ち止まった。
「はあ、追いかけっこは坊やの勝ちね。ちょっと興奮しちゃったわ。男に追いかけられるなんて久しぶりだったし。いいわよ特別に聞きたいこと二つだけ答えてあげる」
彼女を改めてみるとやはり綺麗な人だと思う。胸は、うん、リリィよりもデカいと思う。流石色欲の悪魔だと思う。と郁は思った。
「ふふっ、じろじろ見てスケベなのね。まあ、私は世檡様しか興味ないけど。昔の私だったら坊やと一回くらい交わしてもよかったかもね？」
「…」
「ふふ、冗談よ。自己紹介まだだったわね？私は色欲の悪魔イヴよ。坊やは？」
「…郁です」
「ふーん。さあ、私の気が変わらない内に聞き出してみたら？シャイな坊や」
「男の人達を集めた目的は？皆さん操られてるみたいに様子がおかしかったですし」
イヴは指で自分の髪をくるくると触ると、口を開く。
「色欲の悪魔ですもの。私のフェロモンに当てられた男は皆私の操り人形になってくれるわ。例外はいるけどね。結婚して愛が残ってる男とかは体は乗っ取れても意識は駄目。まあ、操れるから関係ないけどね」
「…操ってどうするつもりだったんですか？」
「強制的にデッドにするつもりだったわ。デッドというより食欲を持たない骸みたい存在ね。私の可愛い召使にしようと思ったのに失敗だわ。4回目にして失敗。長居するべきじゃなかったわね」
「4回目？ってことは、あの人達の他にもいるってことですか？！どこにいるんですかその人達は！」
彼女は唇に人差し指を立てると、にこっと笑った。
「坊や。質問は2個だけよ？今の質問は答えられないわ」
「…っ！」
彼女は郁に背を向けると、壁に手を置く。するとあの時教会で見たことがある扉が現れる。
「今日は坊やとおしゃべりできて楽しかったわ、また会いましょうね？…あのムカつく魔女にもよろしく言っておいて？」
扉は開き、彼女は吸い込まれるように消えていった。
ポケットのスマホが鳴り、郁は端末を耳にあてる。ラヴィからだ。
『ユヅルから聞いたよ、お疲れ様ワンコくん。入口には救急車とパトカーと警察の人達がいっぱいだから裏口から帰っておいで。ユヅルは回収済みだから』
「…はい。あのラヴィさん。ちょっとだけもう一度会っておきたい人がいて…」
『…わかった。気を付けてね』
「ありがとうございます」
郁は電話を切ると、来た道に戻る。
佐伯は救急隊員に支えられ、救急車に乗るところだった。佐伯は郁に気づき、救急隊員に御礼を言うと郁に近付く。
「…ツチノコ見つかったか？」
「…いえ、やっぱり嘘の目撃情報だったみたいです」
ははっと郁は笑うと、頬をつねられる。
「…え、あの刑事さん？」
「その無理して笑顔作るところそっくりだな。ワンコに」
郁はドキリとした。手に変な汗をかく。
「時々そんな顔するんだよ。新人で常に周りに気使って時々無理してんじゃないかって北村と一緒に心配してたっけな…」
佐伯は郁の頭をぽんぽんと優しく撫でる。
「悪い、部下に似ててな。すまん嫌な気持ちしたか？」
佐伯は申し訳なさそうな顔をすると、郁の頭から手を離そうとする。郁は咄嗟に佐伯の手を取ると、自分の頭に手を置く。
「…嫌じゃないです！俺は、そ、その人じゃないけど…！！佐伯さんに撫でられるの嫌じゃないです！！」
郁はぐっと涙を引っ込めると、佐伯の瞳を見る。
「…はは、なんか元気出たわ。ありがとな坊主」
佐伯は笑うと、郁の頭をさっきよりも強く撫でると、じゃあな。といって行ってしまった。
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		<dc:date>2016-10-19T17:50:21+09:00</dc:date>
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		<title>08・Stray sheep for the rest.（迷える羊に休息を。）</title>

		<description>夕凪は医務室のドアに閉め、ため息を吐い…</description>
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			<![CDATA[ 夕凪は医務室のドアに閉め、ため息を吐いた。
「あ、おかえり。夕凪」
声のした方へ顔を向けると、こちらに手を振りユヅルが近づいてきた。
「…お疲れ様。ユヅル、頼みがある」
「話の内容によって判断するけど、いいよ」
「郁にアレをさせてほしい。レベルはユヅルに任せる…」
「任せるって言っても、彼の実力見たことないし…」
ユヅルは医務室の扉をちらっと見ると、困ったように頭を掻いた。
「危ない場合は私が援護する」
「…わかった。とりあえず今日は自室で休みなよ。明日準備しておくから」
「そうさせてもらう。そうだ。さっき七瀬さんと会って…」
「え。七瀬さん？あの人に捕まると朝まで帰れなさそうだからな…見つかる前に僕もお暇させてもらおう…」
「いや。もう無理だと思うよ。後ろ…」
ユヅルの後ろから手が現れ、首に絡む。
「久しぶりだなー！ユヅ坊元気してたか？」
七瀬がユヅルの背中に飛びつく。ユヅルは少し態勢が崩れたが立て直すとめんどくさそうに笑顔を七瀬に向ける。
「お久しぶりですね。七瀬さん。僕、そろそろドールの調整をしに行かなくてはいけませんでしてね…」
「ラヴィとさっき呑み行こうって話になってさ。ユヅ坊も来るよな？」
「いやです」
「いい酒手に入れてさー、辛口【鬼姫】。なかなか入手困難なんだよ。付き合ってくれたらなんでもお願い聞いてあげるよ？お姉さん」
「僕は行きませ「来るよな？ユヅ坊」…喜んで行かせていただきます」
「そう言ってくれると思った。それじゃ行くぞー」
七瀬は上機嫌になりながらユヅルとラヴィと酒場に向かって行ってしまった。


朝7時。夕凪とリリィに連れられ、郁は広いホールに入った。
「郁。昨日のことだけど聞きたいことがある」
夕凪の声がホールに響く。ホールの周りが防音状態になっていることが窺えられた。
「昨日、世檡と一緒にいた男を見てから郁お前の様子がおかしかった」
夕凪はじっと真っ直ぐ郁を見る。リリィは心配そうに手を胸のあたりで握った。　
「…あの人は俺が刑事の頃の先輩。デッドに襲われたあの日も一緒にいて、あの時俺をかばってデッドに殺されたと思っていたんだ。昨日会うまで…」
「あの人が郁くんが探してた猿間さん？」
郁はうなずく。
「私離れて見てたけど、ライフル銃を片手で発砲できて、なお射撃範囲は正確だった。ただの人間があれほどの技術持っているとは思えなくて、それに…」
リリィは口ごもる。
「それに？」
夕凪と郁はリリィの次の言葉を待つ。
「あの猿間さんって人、血の匂いがしたの。デッドとは違う匂いというか…世檡くんの匂いに近い気がしたんだ…。煙の匂いと混じってよくわかんなかったけど」
「なあ、郁。聞きにくいんだけど、猿間さんがデッドに喰われるところ見たか…？」
「…いや、見てない」
「身体の生命が失った後、吸血鬼の血を摂取した場合真由のようにデッド化する。息がまだある状態で血を身体へ摂取させた場合郁のように混血の吸血鬼が誕生する。でもそれは双方の同意の上で契りが交わされるはずなんだ」
「同意？」
「拒絶反応がないってことだよ。少しでも身体に拒絶反応が起これば同胞は生まれない」
「それじゃあ…猿間さんも俺と同じ可能性があるってこと…？」
「もし息があった場合で世檡と何らかの接触があったら可能性は考えられる。そうなるとあの戦闘能力は納得はいく」
猿間さんも自分と同じ状態の可能性が高いということが分かった郁はふと疑問が浮かんできた。郁が混血となって目覚めたとき今までの記憶ははっきりとしていた。それなのにあの時会った猿間は郁を見たとき知らないと言った。それに何の躊躇いもなく郁を撃ってきた。もしや記憶を失っているのだろうか、と。だから次の夕凪の言葉を聞き逃してしまったのだ。
「…でも、双方が同じ性の場合混血が生まれるなんて聞いたことがない…。ラヴィさんが言い忘れるはずもないしな…」
夕凪もつぶやくように言っていた為、聞き耳を立てていなかった郁には到底聞こえることはなかった。ホールのドアが開き、ユヅルと七瀬が入ってきた。後ろからはラヴィの姿も見える。
「その、僕的には色々考えてはいたんだけど、七瀬さんが言っても聞かなくて。早急に援護が必要になるかもしれない夕凪」
「え…ちょっと待てよ。まさか…」
七瀬が郁の目の前に仁王立ちになり、笑顔で言葉を発した。
「郁くんの実力を私が見てみたいんだよね。手合わせお願いしても良いかな？」
「七瀬さんと手合わせ…？あのここで何をするんですか？」
ラヴィは郁に戦闘武器を渡すと銃を握る手を握った。
「特訓。これからアルカラの戦闘に向けてワンコくんには強くなってもらわないといけないからね。僕も七瀬相手はちょっと厳しい気がするけど」
「え、でも女性相手に、それもこの銃も弾入ってますよね…？」
「大丈夫。本物の銃弾は入れてないから。本気で来ないと痛い目みるよ？私強いからね」
「…わかりました」
郁は少し戸惑いながらも、戦闘準備をする。郁、七瀬以外は邪魔にならないようにホール二階に移動した。夕凪だけはすぐに止めに出れるようにとホール隅に立っていた。
「それじゃあ、はじめようか」
七瀬の声が聞こえると同時に郁の懐から激痛が走る。それが七瀬の攻撃だとすぐに理解した。
「ほら、気を抜かないで。私をデッドだと思って神経尖らして」
「っ、すいません」
郁は顔を上げると、七瀬の次の攻撃がすでに郁に向かってきていた。郁は攻撃をぎりぎりのところで横に反れ、七瀬と距離をおく。その間に七瀬の持っている武器を確認した。自分の身長ほどある槍を七瀬は片手で振り回していた。
郁は銃を発砲させるが、七瀬によけられる。
「っ」
「どこ向けて撃ってんの？郁くんって狙撃の腕良いって聞いたんだけど…この程度？」
七瀬の攻撃はどんどん来る。郁は避けるのに精いっぱいでスキをつくことができない。そうこうしている内に壁まで追い詰められた。
七瀬の攻撃を腹にうけ、郁は崩れ落ちる。ぱらぱらと壁から抜け落ちた破片たちが床に広がった。
「郁くん。君弱いね」
頭上で七瀬の声が降り注いだ。郁はぐっと拳を握る。
「洞察力と運動神経。私の攻撃を瞬時に判断して対応出来ているのに、反撃して来ようとしない」
七瀬は郁の服を掴むと、片手で郁を壁際に持ち上げられる。
「君の今の弱さは迷いだ」
「え」
郁はどきりとした。視界が揺れ、瞬きもままならない。
「…このままデッドを倒していいのか。それとも例の彼とまた会うことになったら怖いから？」
七瀬は郁の顔をじっと見た。七瀬はどこまで知っているのだろうか。
「君の決意ってそんな簡単に壊れるものだったの？」
「…俺は、」
郁は口籠る。郁の脳裏に西野の言葉が浮かぶ。
「俺は、もう誰かが悲しむのは嫌なんです。苦しんです。だから、」
郁はぐっと銃口を七瀬に向けた。
「自分の出来ることを全力でします」
郁は七瀬の肩を蹴りあげ、態勢を崩した。そのスキに槍に照準を定め、引き金を引く。槍は七瀬の手から離れ、弧を描くように飛ばされた。
「ふっ、やっと本気出してくれたね郁くん。私もそれに答えてもう少し本気出してみるかな…」
七瀬は嬉しそうに笑うと、空気が一瞬乱れる。まるでその場の空気が七瀬の身体に集まってきているように感じる。郁は嫌な予感がし、身構える。
「はい。ストップ」
いつの間にかユヅルが二人の間に入っていた。ユヅルは七瀬に視線を向ける。
「七瀬さん。嬉しいのはわかりますけど味方相手にその殺気なんですか？七瀬さんは一応上司ですよね？部下の見本ですよね？」
ユヅルの表情は分からないが、なんとなく怒っているのは分かる。
「んー、んうー…。ごめんね。郁くん私ちょっと楽しくなっちゃってー…」
てへっと笑うと、申訳なさそうに頭を掻く。七瀬を見るとちょこんと額に菊のような模様がうつし出されている。
「その模様なんですか…？」
さっきまでこんな模様はなかった為、郁は気になり七瀬に尋ねた。
「ああ、これ？さて、私はなんでしょうか？」
今まで、吸血鬼、人狼、魔女。ラヴィの正体は分からないが多分何かの種族に違いないと思う。ここで普通の人間ですだったら逆にこわい。
「ヒントは私の姿を見ればすぐわかるよー！」
「姿ですか…？」
郁は腕組みをしながら、まじまじと七瀬を見る。すらっと伸びる身長。薄いピンク色の唇。くりっとした女性らしい目元。手足も長く、スタイルはそこそこ良い。胸はまぁ、夕凪といい勝負だとは思う。
「ちなみに、胸はBカップです。ユヅ坊に聞くと形も詳しく知って…ごふっ！」
「変なこと吹き込まないでください。興味ありません」
「そうだよね。ユヅルくん女の子に興味ないもんね～」
「…リリィもちゃっかり参戦しないでくれる？」
ユヅルは二階でくすくす笑うリリィをにらむ。
七瀬は髪の毛を手ですくい上げて、やっと頭の中に答えが浮かんだ。
「…角？」　
「だいたい正解。わたしは鬼なの」
七瀬の側頭部にはちょこんと角が生えていた。鬼と云えば昔から日本の昔話とかに出てきたので、馴染みがあった。　
「普段は妖気を抑えてるんだけど、極限まで妖気を増やすと額に模様が浮き出てくるってわけ」　
七瀬の極限まで妖気を引き出した姿ってどうなふうなのだろうかと郁は興味深かったが、この空気で言い出すのも気まずいのでやめた。
「夕凪よかったね。君が一番ワンコくんのこと心配してただろうから」
下の階へ下りてきたラヴィは夕凪の肩に手を置く。
「別にそんなに心配してなかったので。ただ、私は落ち込んだままのあいつとこれからも一緒に戦っていくのが不安だっただけですから」
夕凪はそう言いながらも、静かに胸を撫で下ろしていた。
「そう？僕には素直になってもいいのに」
「…」

「さて、食堂行かない？七瀬さんお腹すいちゃったよユヅ坊」
「そうですか。僕はここ片付けてから行くので、どうぞ？」
「ユヅ坊会わない内に態度が冷たくなったよね。昔は金魚のフンみたいにくっついてたのにー」
「誰が金魚のフンですか。むしろくっついてくるのは七瀬さんの方でしょう…」
七瀬とユヅルのやりとりを見ていた郁はふと思ったことを口にした。
「あの、七瀬さんとユヅルさんって仲よろしいんですね。なんか距離が近いというか」
「まぁ、師弟関係みたいな？ねぇ、ユヅ坊」
「はいはい。そうですね。ほら、早くいかないと食堂閉まりますよ」
「え、今何時？うわっ今日のスペシャル定食売り切れるかも。それじゃあ、また手合わせしようね郁くん」
そう言い、七瀬はリリィと一緒にホールを後にした。
ホールに残された郁はユヅルに話かける。
「七瀬さんって昔からあんな感じなんですか？」
「まぁ、出会った当時からあんな感じ。本当元気な人だよあの人は」
「そうなんですか。あの、これからもよろしくお願いします。ユヅルさんとはまだ戦闘とかご一緒したことないですけど」
「僕元々待機組だからね。でもまぁ、郁くんとなら一緒に戦っても良いかもね…」
ユヅルの手が郁に重なる。郁は一歩後ずさろうとしたが、ユヅルの片手がいつの間にか郁の腰に添えられていた為阻止される。
「…ユヅルさん？」
こんな至近距離初対面の時以来だなと郁は思いながら、握られていない手をユヅルの胸に置き、押し返そうとする。しかしユヅルはびくともしない。同性なのになぜこんなに力の差があるのかと感じてる間にも鼻と鼻がつくくらいの距離まで近づく。
女の子に興味がないとリリィは言っていたが、まさかそっち系なんじゃないかと唐突に郁は思い、混乱する。
「えと、あの、俺そっちの気はなくて…だからその、」
「郁くんの瞳の色綺麗だな。肌も白いし、」
「そ、ですか？」
「きめ細やかで、唇もピンク色で」
「あの、ユヅルさん」
やばい。これはガチだ。郁はめまいがした。
「今度のドールのコンセプトは男の子にしよう」
「…はい？」
ぱっとユヅルは郁から離れると、すっきりした顔をした。
「じつは、行き詰ってたんだ新しいドール作るのに。昨日黒髪ドール完成後新しいドールを徹夜で考えてたから」
「…よかった。俺、ユヅルさんは女性に興味ないと聞いていたのでそっち系の人だと思ってて。すいません」
「もしかしてリリィが言ってたんだ…。正直言うと人に興味が湧かないだけなんだよ僕。別に郁くんが謝ることじゃないから」
「ありがとうございます…」
「やっぱり吸血鬼になると目の色変化するんだね」
「え、変わってるんですか？」
「いや、今は黒目だけど、さっきは赤色だったよ」
全く気にしていなかったが、やはり前とは違うのだなと郁は思った。そういえば夕凪も戦闘中瞳が赤色だった気がする。
掃除を終え、郁達もそれぞれ自室に戻る。郁は部屋のシャワーを浴びながら汗を流す。
七瀬と戦い。改めて自分の実力のなさがわかった気がした。迷いが完全に消えたわけではないが、もう一度猿間に会った時にはきっと戦闘になるだろう。
「…考えてても駄目だ。直接猿間さんに聞くしかない」
もしも記憶を失っていても、もしかしたら何かの反動で思い出してくれるかもしれない。そしたらまた一緒に…
シャワーの水量を弱め、シャワー室から出ると眠気に一気に襲われ、郁はそのままベットに崩れるように身体を沈めた。 ]]>
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		<title>07.I want to be happy 【幸せになりたい】</title>

		<description>「猿間さん…生きていたんですね」
郁の声…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「猿間さん…生きていたんですね」
郁の声が震える。頭に強い衝撃を受けたかの様にただ目の前の人物を見つめていた。
漆黒の神父服に身を包み、左腕には銃弾の残り香が残るライフル銃をぶら下げていた。無表情のまま銃口を郁に向けた。
「っ、郁！ぼっとするな馬鹿」
夕凪の声が響くのと同時に右頬に銃弾がかすめた。
郁は我に返り、狙撃範囲から離れ、教会の柱に身を隠した。一息つき、頬に触れると少量だが血が流れていた。
「あれれ、ノアの箱舟の目的はデッドの駆除だよね？僕にかまってていいのかな?」
「ちっ、今はお前が先だ！世釋！」
夕凪は世釋に刀を振るがきれいに交わされる。
「お前らの目的はなんだ！なんでデッドを増殖させる？！」
「夕凪。お前にはわからないと思うよ？むしろなんで教えないといけないわけ？」
「…お前を捕まえて吐かせてやる」
夕凪は間合いを詰め、刀を突き刺すように世釋の腹に向けるが、目の前に突然現れた心葉によって夕凪は刀の軌道をそらした。
心葉は左手が赤黒く変形し、爪は鋭く尖っていた。息は荒く吐き出される。
「…ふざけるな。約束が違うじゃないか。お前の言うことを聞けば他の俺みたいな奴らから花菜を逃がしてくれるって…！」
「あー、言ったね。他のデッドから彼女を喰わせないようにするって。でも無理でしょう？いつか彼女は喰われるよ。愛したデッドに」
「…俺は、花菜を喰べたりしない。今だって俺はあんたに渡された普通のパンを、」
「本当、全然疑いもしてなかったんだね。デッドが普通の人間が食べるモノで空腹が満たされるわけないじゃん。君に渡してたパンに何が含まれてたか知ってる？僕が君に集めてもらった女の血肉だよ」
「は」
「君と彼女が愛の逃避行をしようが、いつか君は人間の血肉を欲しがる。そして彼女を喰らうよ。ハッピーエンドになんかならない」
世檡はにこりと笑うと、心葉を指さす。
「前の君の方が好きだった。もう要らない」
そう言うと、大量の銃弾が心葉の身体を貫き、崩れ落ちた。夕凪は銃弾を刀で弾きながら銃弾の波から距離を取った。
「流石タイミングバッチリだね。エンマ」
世檡は嬉しそうに、自分のもとに近付くエンマの腕に絡まりついた。
「やっぱり君を連れてきてよかったよ。さっきから君に銃口を向けて絶望的な顔をしてる彼を見れたんだから」
郁は銃を持つ右手の震えを止めるかのように左手を添える。目の前で行われた無差別な銃殺。それをやった猿間に。ただ恐怖を感じていた。
「なんで…こんなことするんですか？西野さんは人間なんですよ？心葉さんだってデッドでもこんな…違う方法だってあったかもしれないじゃないですか」
「はは、笑えるね。さっきまであそこの女にデッドは危険だ。近づかない方が良いとか言ってたくせに、同情でもした？第一無差別に殺してるのは君たちの方じゃないか」
郁は銃を握る手に汗がにじむ、彼の言っていることは当たっている。デッドの恐ろしさは身をもって知っている。
「私は、ただ心葉と一緒にいたいわけじゃない」
声が響き、皆、西野に視線を向ける。西野はリリィに支えられながら声が途切れながらもつぶやく。
「私だって、心葉が普通の食事じゃ満足しないこと分かってた。貴方が心葉に渡してたパンが普通のものじゃないってなんとなく気づいてた。バイト行くふりして心葉の後をつけて、貴方たちが何してたか知ってた。でもこれ以上心葉を傷つけたくないから黙ってた…」
西野は咳き込むと押えていた手には大量の血がついており、息も弱弱しい。
「心葉には怒られそうだけど、私は心葉に喰べられてもよかったんだよ。心葉にはいっぱい幸せもらったから、心葉が私を地獄から救ってくれたから…」
「西野さん…」
「心葉は幸せになっちゃいけないの？人間じゃないから？私は幸せって平等にあるって思ってる。私はただ心葉を幸せにしたいの。それなのになんで、なんで…」
西野は顔を歪めながら、訴えるように言葉を絞りだす。
「西野　花菜さんだっけ？君の最後の言葉として頭の片隅にでも置いとくよ。そろそろ人も集まってきそうだしね。それじゃあ、ノアの箱舟の皆さん。またね」
世檡はにこりと笑うと、世檡達の後ろに扉が現れる。扉がゆっくりと開き、世檡達はその中に入っていく。
「っ、猿間さん。待ってください。行かないでください」
郁は猿間を引き留めようと腕を伸ばす。猿間は振り向き、郁の顔を見ると「…俺はお前のことは知らない」と一言つぶやき、扉がバタンと閉まった。
郁の手は行き場をなくし、ゆっくりと下される。唇を強く噛み地面を直視することしかできなかった。
「げほげほ…！！」
西野の激しく咳き込む音が聞こえ、郁は西野に駆け寄る。
「西野さん…！ごめんなさい。俺、貴女の気持ちなんて考えてなくてただ俺、自分のことしか考えてなくて…心葉さんにもなんて言えばいいか」
西野は郁にほほ笑む。
「郁くん、貴方を責めるつもりはないわ。貴方さっき目の前で人が死ぬのは見たくないって言ったわよね？大切な人を失いたくないって。その気持ち忘れないで、私達みたいな人もいるんだって覚えていて…」
西野は背中をさするリリィに視線を向けると申し訳なさそうにつぶやいた。
「…お願いがあります。心葉のそばに行かせてくれませんか？」
リリィは鼻水をすすると、「わかりました」と言い、西野を支えながら心葉の元へ近づく。
西野は心葉の傍に座ると、心葉の頬に触れる。
「冷たい…。心葉ありがとう。大好きだよ。恩返し結局できなかった…ごめんね」
「恩返ししてると思うぞ。私は」
夕凪は刀を鞘に納めると、西野の横にしゃがむ。
「あんたと一緒にいるだけで幸せだったと思うぞ。ここ数日あんた達を見て思ったよ」
「そっか…。よかった」
西野は安心したかのように目を閉じ、静かに息を引き取った。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「この責任はどう取るつもりだ。アンダーグレイ君」
今、郁達は【ノアの箱舟】の本体である上層部の人間達に囲まれている。郁の位置からは上層部の人間の口元までしか見えない。
あの後、郁達より先に心葉たちを見張っていた上層部の人間達が教会裏の林で無残な死骸となり見つかった。仰向けの状態に両手を胸の位置にクロスしていたという。
聞くと、世檡の遊び心で遺体をそうするらしい。
「あれほど、被害者の人間を危険に晒すなと言ったはずだ。それもアルカラによって殺されたと？」
「西野花菜は幸い身内もいなく、世間ではどこか外国に行っているということで済みましたが…アンダーグレイ君。君の監督ミスでは？」
「むしろこちらに世檡の身内がいるということが害なのでは？情が移るようなことがあったのでは？」
口々に上層部の人間達はラビに向かって棘のある言い方をする。
「化物の管理も出来ないとは、アンダーグレイ君。相討ちでもいいのだよ？化物同士自滅でもしてもらえれば…」
「な…！」
その言葉に郁は身を乗り出そうとしたが、ラヴィは首を振り止める。
「しかし、上層部が送り込んだ人間では何も出来なかったのは事実。ラヴィ達部隊がいなくてはアルカラに手も足も出ないのではないですか？」
一人の女性が手を上げ、発言をすると上層部の人間は口ごもる。
「…これからこのようなことがないよう務めたまえ。アンダーグレイ君。以上だ」
「申し訳ございませんでした。以後このようなことがない様、部下を指導させていただきます」
ラヴィは深く頭を下げ、郁達も同じように頭を下げた。入口を出ると、先ほど手を上げ上層部の人間に発言した女性が手を振った。
「なっちゃん！さっきはありがとう！上層部の人達にがつんって言ってくれて～」
リリィは女性に抱きつき頬をすりすりさせる。女性も笑いながらリリィの胸をぽふぽふ揉みながら笑う。
「また胸成長したんじゃない？リリィ。やわっこいわ～」
「やん。感じちゃう～」
「そんな声出すと襲っちゃうぞ？」
「ここで変態発言しないでくれますか…七瀬さん」
夕凪はため息をつくと、七瀬と呼ばれた女性はにこにこしながら夕凪の頭を撫でた。
「夕凪もさらに可愛くなったなぁ～」
「かわ、可愛くなんかないし！！」
夕凪は顔を赤くするが、大人しく撫でられていた。
「久しぶりに収集とかいわれるからびっくりしたわ。上層部の人間も相変わらずだなー、口だけ達者で」
七瀬はやれやれと言いながら、肩をすくめる。
「ここから第五支部遠いからね。ホント助かったよ七瀬」
「私は言いたいこと言っただけだし。あと、第五支部のメンバーの一部こっちに異動になったんだわ」
「そうなんだ」
「異動と言っても、第二支部に数名メンバー補充ってことだよ。私と後から2名来る予定。本格的に加入するのは一か月先だってさ。それよりこの子が噂の」
七瀬は郁に視線を向けると、にこりと笑う。つられて郁も笑うが少しだけ笑顔が引きつる。
「私は七瀬。西にある第五支部に所属している」
「あ、よろしくお願いします。狗塚　郁です」
「郁くん、君の噂は聞いてるよ。混血吸血鬼だってね。…というか顔色悪いね」
「あ、いや。なんかさっきから喉乾いてて…すいません」
郁はノアの箱舟に戻ってきてから、喉が枯れるような痛みを感じていた。風邪の症状に似ている。
「…郁。ちょっと私と来い」
夕凪は郁の腕を掴むと、ラヴィ達に一礼すると郁を連れ、医務室に入る。
医務室はしんと静まりかえっている。郁は医務室のベッドに座らせると、夕凪はセーラー服の帯を外し始めた。
「え、夕凪ちゃん？ちょっとなんで脱ごうとしてるの？」
郁は立ち上がり、制止するが振り払われベッドに投げ出される。夕凪に馬乗りされ、身動きが取れない。
「お前、いつから飲んでない」
「え、飲んでないって…」
「私がお前に渡した輸血パックの血は飲んだのか？」
輸血パックとはあの時夕凪に渡されたものだと思い出すまで時間がかからなかった。
「いや…飲んでないけど」
「はぁ？馬鹿かお前一滴も飲んでないとか…。今お前は餓死状態だ」
「え、でも、飯とかは食べたし…」
「普通の食事だとエネルギーが足りないんだよ。郁。私に噛みつけ。血を飲め」
「は、いや…でもこれ以上俺に近付かないで夕凪ちゃん…俺なんかおかしくて…」
喉が焼けるように痛い。胸がドクンドクンと脈打ち、めまいもする。
「…お前はもう人間じゃない。吸血鬼なんだよ。今拒否れば理性なくして他の人を襲いかねないんだよ」
俺が人を襲う？まるで恐れていたデッドの様に人を襲うのか。
「あー…もうくそ！」
夕凪は自分の腕に牙を立てると血をすすり、郁の唇に口づけた。郁は驚き目を見開く。唇を割るとドロッとした生暖かい液体が郁の口に広がる。夕凪の血だとすぐにわかったが唇から逃れることができない。
視界が歪み、次の瞬間逆に夕凪を押し倒した。唇が離れ、倒れる弾みで夕凪が目を瞑る。郁は夕凪の首筋に噛みつくと勢いよく血をすする。
「っ…」
血を欲するように頭に電気が駆け巡る。やめろやめろと何かが叫ぶが力が溢れてくるのを感じた。
夕凪は衣服を正し、医務室から出ていく。郁はベッドにうなだれながら夕凪の背に声をかける。
「…ごめん」
「さっきまでの喉の渇きが嘘みたいだろ。今度からは接種しろよ。輸血パックが駄目ならラヴィさんに相談してみるから…」
「…うん」
「お前はおかしくないから。そんな傷ついた顔するな。私達にとって逃れられないだよ吸血本能は…」
「…うん」
「デッド達もそうなのかもな。でもデッド達を狩らないと駄目なんだ私たちは」
「…うん」
「今日の事はお前の責任じゃない。悪かった。辛い役させて…」
「…俺、二人を見逃がしてあげればよかったのかな…」
「…さあな」
夕凪は扉を閉めると、医務室には郁のすすり泣きの音が静かに響くだけだった。



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		<dc:date>2016-03-25T17:38:26+09:00</dc:date>
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		<title>アルカラ所属人物</title>

		<description>傲慢（高慢） 世檡（バロン）…吸血鬼　
…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 傲慢（高慢） 世檡（バロン）…吸血鬼　
憤怒（激情） エリーゼ…吸血鬼
嫉妬（羨望） ？（藍・朱）… マーメイド
怠惰（堕落） ニア…ベルフェゴール
強欲（貪欲）　ジキル…マモン
暴食（大食） マリア…ベルゼブブ⇒抜ける。ユヅルの使い魔
色欲（肉欲） イヴ… サキュバス

アルカラの目的。
 ]]>
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		<title>06． approach（接近）</title>

		<description>この日々がずっと続くのか。と何度思った…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ この日々がずっと続くのか。と何度思っただろう。
このまま、楽になりたいと何度考えただろう。
涙なんて遠の昔に枯れてしまった。
体中の傷と心のキズは同じ場所を抉るように深くなっていく。
ああ、どうして自分なのだろう。どこで間違えたの？どうすればこんな風にならなかったの？
答えなんて、きっとかえっては来ないだろう。
「君は同じだ」
そう空から声がした。
真っ暗な世界から差し出された手を握り、立ち上がった。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「今回は簡単に事が運ぶとは思ってない」
夕凪は刀の手入れをしながら、つぶやいた。
「今回のデッドはイレギュラーだからな。前にも話したが本来デッドは無条件で人を襲う人食いの化物だ。デッドとその人間が常に一緒にいた場合ヘタにこっちの正体をバラせば危険にさらす可能性が極めて高いからな」
「デッドが一人になる時がわからないと難しいってことだよね～、一人になったとしても大学内。周りに人がいる時点でこっちからは動けないよね」
リリィは髪の毛を指でいじりながら、ため息をつく。
郁はふと、頭の中に浮かんだ考えを言葉に出した。
「学生のふりをして大学内に潜り混めば、そのデッドの行動を把握できるんじゃないかな？上層部の人達だと違和感があって怪しまれそうだけど、夕凪ちゃんならすぐには怪しまれなさそうだし。あの大学の広さなら初めて会ったとしても警戒は少ない。そのデッドにも近づけるかもしれない」
「…考えはいいが、一つ問題がある。私じゃ無理だ。デッドと接触できたとしてもすぐ吸血鬼だとバレる」
「なんで…」
「気を纏っているからだよ。近づけば本能的に感じ取られてしまう。だけど郁の場合半分吸血鬼だから周りの人間と気が混じってわかりにくくなる」
「…ということは、」
嫌な予感がし、郁は唾を飲む。
リリィはにこっと郁の方へ親指を立てると、
「郁くん。大学生デビューおめでとう！服とか大学手続きは任せて」
と言った。


遠くの方でピアノのメロディーと歌声が聞こえる。広い講堂に足を踏み入れ郁は目的の人物を探していた。
授業開始のチャイムはまだ10分前であり、早めに席についた学生達はおしゃべりを楽しんでいた。
「…すいません。隣座ってもいいですか？」
郁は席を指さしながら声をかける。
「あ、どうぞ。すいません荷物隣の席に置いていたもので…今片付けますね」
彼女が荷物を自分の足元へ置いたのを確認すると、郁は席に座った。
「いつもは後ろの席に座ってるんですが、最近目が悪くなってしまって…お友達とか来る予定でしたか？」
「いえ、大丈夫ですよ。この位置だと黒板がよく見えますもんね。私もいつもこの席に座ってるんです。あ、ごめんなさい。私経済学部３年の西野花菜です。あなたは？」
「２年の狗塚　郁です」
「人多いから1年離れてると全く誰かわからないものね」
彼女は照れ笑いすると、同時にチャイムが鳴り教授が入ってきた。
ラヴィさんから聞いた情報では、彼女西野花菜は親しい友人が少ない。いつも行動を共にしている友人はこの講義はとっていない為、彼女に接触できる可能性が高い。
彼女、西野花菜はデッドのターゲットとされている人間である。彼女と親しい間柄になればデッドに近付くことができ、またいざとなった時彼女をデッドから引き離すことができる。とラヴィは郁達に伝えていた。
郁は横目で西野を見た。西野はデッドの正体を知っているにも関わらず騒ぎ立てずデッドと行動を共にしている。デッドに脅されているのか理由は今のところ分からないが、今の彼女にそんな雰囲気は感じない。
夕凪とリリィはなるべく郁の近くにいるとは言っていたが、姿は見えない。
終了のチャイムが鳴り、郁は机に出していたものを鞄にしまう。隣の西野も教材を整えていた。
「西野先輩。この後お昼一緒に食べませんか？さっきの授業で分からない部分があってよかったら教えていただきたいのですが」
「ええ、いいわよ。一人一緒にいる子もいるのだけど」
「あ、迷惑だったら大丈夫です。今度の授業前にでも教えていただければ…」
「ううん、迷惑だなんて。彼あまり気にしない人だから、一緒に食べましょう。食堂に移動することになるけど大丈夫？」
「はい。ありがとうございます」
郁は西野と食堂へ向かい、それぞれ食券を買う。
「おばちゃん。とろろとネギ山盛り追加でお願いします」
券を渡されたおばちゃんは「はいよ。」と言い、とろろとネギが山盛りになったうどんを西野に渡した。
郁もカレーライスが乗ったお盆を持ち、席に座った。
「西野先輩って、細いのに以外に食べるんですね…」
「ふふ、心葉にも同じこと言われたわ。自分じゃまだ物足りない量なのだけど…あ、心葉」
西野は顔をあげ、ほほ笑んだ。郁もそちらを見ると心葉と呼ばれた青年が立っていた。
「心葉、彼は２年生の狗塚くん。天野教授の講義で一緒だったの」
「…そうなんだ」
彼はそう言うと西野の隣の席に座る。
「…天野の講義受けるなんて、狗塚くんは頭良いんだね。俺だったらすぐ寝そうだわ」
「心葉は集中力足りないのよ。すごく面白いんだから天野教授の講義」
「花菜。ほっぺにネギついてる」
「ん？あ、本当だ」
西野はネギをつまむと口に含んだ。
「心葉先輩は昼食べないんですね」
「そうなの。心葉ったら普段から小食なの。狗塚くんも食べるよう言ってあげてー」
「さっき、講義休みだったからパン食べたって。狗塚くん手、止まってるよ」
「あ、すいません。お二人とも仲良いんですね。…もしかしてお付き合いしているとか」
「ええ、自慢の彼氏よ」
「恥ずかしいことをすぐ言葉に出すな阿保」
「未だに恥ずかしがってるのは心葉だけよ。そんなウブなところが好きなのだけど」
「先輩方ノロケないでくださいよ。こっちが恥ずかしくなりますよ」
他愛無い話をしていると、周りの生徒達もそれぞれ動き出し始めた。
「あ、すいません。俺、次の講義入ってるんでした。お先失礼します」
「ごめんね。そういえばわからないところ教えるって言ってたのに結局教えられなかったね」
「大丈夫です。今度の授業前に教えていただければ、先輩方は次の講義は？」
「今日はもうないの。私はこれからバイトなのだけど」
「狗塚くん。次の講義どこ行くの？」
「確か、２２５教室です」
「じゃあ、近くまで一緒だね」
「そうなんですか」
「それじゃあ、二人とも頑張ってね。」
西野は手を振り、食堂の出口へと小走りに駆けていった。
それを見送り、郁は心葉の方へ顔を向け、
「じゃあ、心葉先輩行きましょうか…」
「何しに来たわけ」
心葉は郁の腕を強く握り、睨む。
「他の人間の匂いで誤魔化せるとでも思った？流石にこの距離だったらわかったよ」
心葉はほほ笑んでいるが目は笑っていない。腕を掴む力がどんどん強くなっていく。
「…っ離してくれませんか？」
「…お前もあいつらの仲間？もう付きまとわないでよ…ちゃんとやってるだろう…！」
「あいつらって誰ですか？貴方に会ったのは今日が初めてですが」
「花菜に近付くな。花菜は関係ない」
そう言うと心葉は手を離すと、出口に向かっていってしまった。握られていた腕を見ると手の跡がついており、少し傷んだ。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「すぐに勘繰られるとはね…」
夕凪はコーヒーカップに口をつけた。
「それにあいつらの仲間ってさ、あの心葉くんって子上層部の人達に気づいてたのかな？」
「さあな。上層部からの情報は一切なし。見張っているとはいっても接触は指示がなければしないからな奴らは」
「でも私今まで上層部の人が戦ってるところ見たことないけどなー。あ、私のハンバーガー来た来た」
リリィは口を大きくあけ、唇の端に赤いケチャップをつけ、ぱくぱくと旨そうに飲み込み、親指くらいの太さのあるフライドポテトをもりもり口に運ぶ。
「それで、西野花菜の様子はどうなんだ？」
「うーん、彼に対する恐怖心は感じられなかったかな…」
ストローでコーラをじゅっとすすり、郁はため息をついた。
郁が心葉と接触した後、夕凪から連絡が入り、このフォーストフード店に来店した。
「もし心葉さんが俺たちの行動に気づいてたとしても、ちゃんとやってるだろうってなんだろう」
「郁の言うようにその言葉は違和感を感じるな…。アルカラの可能性を視野に入れて不審な動きがないか調べる必要があるか」
「…俺はもう少し西野さんと一緒にいてみる。ちょっと気になることがあるんだ…」
「…何かあればすぐ連絡して。まあ、少しでもデッドの気が乱れれば気づくけどね」
「わかった。夕凪ちゃん達も気をつけてね」
「ありがとう郁くん！心配しないで夕凪ちゃんは私が守るから！」
リリィは郁にポテトの油で光る親指を立てる。
「ははは、心強いや」


「西野先輩」
本に目を落としていた西野は顔を上げると郁が立っていた。
「おはよう、郁くん」
「おはようございます。西野先輩は講義がない日はこちらの教会にいると聞いて…」
郁は西野の隣に腰かけ、周りを見回す。
「ふふ、今日は心葉はいないわ。用事があるんですって。それに心葉と一緒だと聞けないことなんでしょう？」
西野は本を閉じると、困ったように微笑む。
「単刀直入に言います西野さん。心葉さんは貴方を喰らおうと思っていると思います。それが今じゃなくても、遠くない未来には」
「…やっぱり郁くんは心葉の正体を知っていて私に近付いたのね」
「西野さん、心葉さんは危険な存在なんです。…俺はもう人が死ぬのは見たくないんです」
「郁くん。貴方は心葉が恐い？」
西野はまっすぐに郁の目を見る。郁は目線を落とし、膝に置いた手を強く握った。
「私ね、今まで何度も死にたいと思ったの。私ね昔からよくいじめられてたの」
花菜は物心つく前に両親が不慮の事故に遭い、親戚もいなかった花菜は孤児として施設で育つこととなった。
花菜が１０歳になった頃ある夫婦の元に養子として迎えられた。それが西野花菜の地獄の始まりだった。
花菜が養子として迎えられた西野家は有名は学園の理事長宅だった。父は偉い学園の理事長。母は優しく綺麗で愛想の良い奥さん。それは外での話。
家の中の父は有り金を酒に注ぎこむ男。母は浮気を繰り返し、髪が乱れようとも快楽に溺れる女だった。
そして花菜はその者たちの一人息子の良いおもちゃとなっていた。
息子のストレスのはけ口として花菜は何度も暴力を受け、また食事もあまり与えられないような生活を送っていた。
外の世界での息子は爽やかな笑顔を振りまき、女性に人気がある好青年。花菜をいじめていた女生徒も息子に恋する連中だった。
息子に話しかけられている花菜。息子の近くにいる花菜。息子と一緒に暮らして幸せな花菜。親にも恵まれている花菜。女生徒の勝手な思い込みと嫉妬が外の世界でも花菜を苦しめた。
いつしか花菜が養子であり、施設育ちの孤児だと言う噂が流れ、女生徒達は面白可笑しく花菜にいじめを繰り返していた。家でも暴力を受け、外の世界でも味方は誰もいず、花菜はただ日々の暴力に耐えるしかなかった。
「あーつまんね。花菜最近泣かないし、声も発さないしさ…お兄ちゃん悲しいな」
花菜は虚ろな目をし、ただ窓の外を見ていた。
この日々がずっと続くのか。と何度思っただろう。
このまま、楽になりたいと何度考えただろう。
涙なんて遠の昔に枯れてしまった。
体中の傷と心のキズは同じ場所を抉るように深くなっていく。
「…良いこと思いついた。花菜今日で１８歳だよな？身体もいい感じで成長してるしさ。いいよな？」
「…え」
ズボンのベルトを下し、男は花菜のスカートの中の下着に手をかける。
「や、いやだ。やめて…」
「花菜だし、慣らさなくてもいいよな」
「いや、いやぁ！！！」
「うるせぇよ！！大人しくしろ！！」
「うぐっ…！！」
花菜の口の中にネクタイが詰め込まれ、空気が塞がれる。
「別に中出してもいいよな？良いおもちゃ見つけたわ。締まりも良さそうだし。今度俺の友達も呼んでまわそうぜ」
ああ、どうして自分なのだろう。どこで間違えたの？どうすればこんな風にならなかったの？
…答えなんて、きっとかえっては来ないだろう。
「うるさい」
目を開けると雨のように降り注ぐ血しぶき。さっきまで花菜を押し倒していた男の首が床に転がる。
「はぁ、まずそうだなこの肉。変な臭いするところあるし…」
「…誰」
花菜は起き上がり、瞬きを繰り返す。
「あ、この子おいしそうだな…。とりあえず服整えなよ下着見えてる」
「あ、はい」
花菜は服を整えながら、来客者を見る。年は花菜と同じくらいだろうか口元を服の裾で拭いている。
次に花菜は横に倒れた首のない死体を見て、ほっと胸をなでおろした。
「あの、あなたは誰ですか？」
「ん。とりあえず君とは見た目は同じだけど、違う人種の生き物だよ」
「…人殺しさんですか？お金だったら父の書斎の金庫ですよ。金庫の鍵は父が持っていると思いますが…」
「鍵ってこれの事？変な形のブレスレットかと思った。別に金銭目的じゃないよ」
「そうですか。じゃあ、好きにして下さい」
花菜は青年の前に歩み寄ると、目をつぶった。
「…兄をどう殺したかはわかりませんが、私は抵抗等はしませんのでどうぞお好きなように殺してください」
「…もの好きだね。そっちから進んで近づいてくるなんて…」
「私を殺した後、この家を跡形もなく燃やしてくれませんか？西野花菜は元々いなかった存在だと」
「…君は同じだね」
「え」
「本当は幸せになりたいんでしょう？それに俺はそんな諦めた顔してる人喰べる趣味ないから」
「え、あの」
青年は花菜の手を取ると、口の中に含み噛んだ。
「っ」
「今、西野花菜は死にました。今から君は俺の所有物になりました。だから勝手に死のうとしたら本気で喰べるから」
「喰べる…？」
「俺、人殺しじゃないよ。人を喰べる化物（デッド）なんだ。どうする？付いてくる？」
差し出された手を取り、花菜はほほ笑んだ。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「あの後、心葉が私の家族を喰べたのかは分からないけど、兄の部屋に来る前に満足そうな顔をしていたから、誰かしらのことは喰べていたのかな」
「…恐くないといったら嘘になります。俺は大切な人を目の前で殺されたんです。デッドに」
「そうだったんだ…。ごめんなさい私、郁くんの気持ちわかってあげられなくて」
「…西野さん。貴方だったらきっとこの先違う幸せだって…！」
郁は眉を下げながら、押し殺すように最後の言葉を口にする。
「心葉が私を救ってくれたの。心葉がいない幸せなんて考えられないの。だから、郁くん。私達を見逃して…？」
「っ…！」
「私、心葉と幸せになりたいの。可能かは分からないけど心葉と普通の温かい家庭を作ったり…」
郁には西野の声が耳に届かず、ただただ頭の中が混乱していた。目の前の少女はデッドと幸せになりたいと笑顔で言っているのだ。あの人食いの化物と一緒になりたいと。
「ねぇ、郁くん。郁くんの幸せがいつか見つかるといいね」
「西野さん。俺は貴方のようになれません…」

「花菜！！」
教会の扉が開けられ、息を切らした心葉が入ってきた。心葉は郁をにらみ、近づいてくる。
「…お前、花菜に近付くなっていったよな」
「心葉。私は大丈夫だから」
西野は心葉と郁の間に割り込み、心葉に微笑む。
「っ、お前、あいつらの仲間だろ？俺の役目はクリアしたはずだ。だからこれ以上俺たちには…」
「俺の役目はクリアした…？」
「指定の場所に条件に見合った女性は連れていった。もうこれ以上は…」
「心葉さん。何を言ってるんですか？それにあいつらって…！」
「ちょっと、なに部外者にばらそうとしてるのかな？本当感情を持ったデッドは扱いにくいんだから…」
声のした方に一斉に目を向けると祭壇の上に赤髪の少年が座っていた。
「まあ、いいか。それにしても懐かしい匂いがすると思ったらやっぱりね」
少年は教会の入口に目を向けると扉の陰から夕凪とリリィが姿を現した。
「…白釋」
「夕凪ちゃん？リリィも…」
郁は夕凪とリリィの登場に驚き、瞬きを繰り返した。
夕凪は鞘から刀を抜き、郁の横を横切り、祭壇に座る少年に刀を振りかぶった。
心葉も西野の肩を抱き、その場を離れようとした時ぱんっと銃声の音がし、次の瞬間西野の腹から大量の血が噴き出した。
「花菜！！」
崩れ落ちそうになった西野を心葉は支える。
リリィは急いで駆け寄り、止血を試みる。
「っ、花菜に触るな！」
「そんなこと言ってる場合ですか？とりあえず安全な場所に移動させます」
郁は銃弾が放たれた先を見て、目を見開く。
「…猿間さん？」
それはあの時郁の前でデッドに襲われ、亡くなったと思っていた猿間の姿だった。 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2016-02-12T17:20:19+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://jam6059.web.wox.cc/novel/entry7.html">
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		<title>05.The Magician（魔術師）</title>

		<description>「－それで、分析した結果だけど」
宮下…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「－それで、分析した結果だけど」
宮下の研究室を後にし、【ノアの箱舟】に帰ってきた郁達はラヴィがいる部屋に集まっていた。
「この瓶の中身だけど細胞を作り変えて再生する成分が含まれていた。微量だけど彼の血が検出されたから夕凪が言う通り今回も彼らが裏で関係してるっぽいね」
「・・・・」
夕凪は言葉を言葉を発さず、ラヴィをじっと見ている。郁はふと研究室で夕凪が言っていたことを思い出した。
「…ノアの箱舟に敵対してる組織があるって夕凪がさっき言ってたけど…その彼もそっちに関係してる人ってことなのか？」
「勘が鋭いね。ワンコくん」
「だけど、その彼の血が混じったからって、あの化物が生まれるんですか？」
郁はラヴィに問う。ラヴィは一息つくと、口を開いた。
「…リビングデッドは生前吸血鬼に血を吸われて命を終えた人間が化けた化物だからだよ」
郁は瞬きを繰り返す
「リビングデッドは吸血鬼に血を吸われた者が非処女・非童貞であり、さらに食糧としての目的の場合のみなるんだよ。同族を作る場合は対象外だけどね。そして純血の吸血鬼はこの世に２体しかいない。ワンコくんの場合夕凪と契約して半分は吸血鬼になってるけど元は人間だったからね混血の吸血鬼に分類される。混血はリビングデッドは作れない」
「はぁ」
「さて、ここで問題。夕凪はリビングデッドは作らない。それならリビングデッドは誰が作ったかわかるよね」
「…もう一人の吸血鬼がその敵対してる組織にいるってことですか」
「そうゆうこと。目的は不明だけどデッドを大量繁殖させてる組織が【アルカナ】。ノアの箱舟は古来からいるリビングデッドを狩ってたけど、【アルカナ】のおかげで新種のデッドが最近増えてきたんだよ」
「…【アルカナ】には私の兄貴がいる」
さっきまで口をつぐんでいた夕凪がつぶやく。
「名前は世檡【セト】純血種の吸血鬼だ」

郁達は今ある部屋に向かっている。
ラヴィは会っておいて損はないし、そろそろ他の仲間も把握しておいた方がいいんじゃない？と言い出し、今その仲間がいる場所へ夕凪、リリィ二方に案内されていた。
「あのさ、もう一人の仲間ってどんな人なの？」
「郁くん。気を付けた方がいいよ？なんと今から会いにいく人は変態なのです！」
リリィはふふふっと意味深に笑う。
「へ、変態？」
「そう、大きい声では言えないんだけど…女の子にね、興味がないの」
「…はい？」
「リリィ。郁に変なこと吹き込むな」
夕凪はため息交じりにリリィの頭をこつんと叩く。
「でもでも、女の子に興味がないのはホントだよ？この前なんてせっかく男湯の暖簾と女湯の暖簾交換しておびき寄せてみたの。でもリリィたちの裸見ても無表情だったし。夕凪ちゃんのパンチ食らうまでずっと棒立ちだったよね」
「っ、リリィおまっ、あれは偶然だって！！」
「あ、いけない。夕凪ちゃんには内緒だった…」
夕凪は真っ赤な顔をして、口をパクパクしている。郁は思わず、ふっと笑ってしまった。
「な、郁何がおかしいんだよ…！」
夕凪は腰に下げていた刀に触る。
「いや、ごめん。その夕凪ちゃんも可愛いところあるんだなって。顔真っ赤にして」
「…は、ば、馬鹿なんじゃないの！馬鹿阿保ォ！な、泣き虫のくせに！！」
「ちょっ、泣き虫じゃないし！」
そうこうしているうちに例の彼がいる部屋の前に付いた。
「ユヅルくーん中入るよん！」
リリィはドアをノックし、部屋の主人の返答も聞かぬまま、ドアを開いた。

薄いレース状のカーテンが風になびき、少女の長い綺麗な黒髪が白いワンピースに触れ、キラキラとながれおちる。
少女の右脚が美しい曲線を描きながら木製のフットスツールにのっている。
青年は近くにしゃがむと彼女の右脚に触れ、口づけをした。
その光景を見ていた郁は開いた口が塞がらず、ポカーンとしていた。
「…なに」
青年は郁達に視線を向ける。
「ユヅルくん窓閉めてよー！さっき微妙に力出したから普段より鼻が敏感なんだよー！花粉の時期だし…！」
リリィは頬を膨らませながら開いている窓を閉めにいく。
「完成したドールにいちいち口づけするのやめないか？見ていて恥ずかしい」
「僕の返事も聞かずに部屋に入ってきたからいけないんでしょう。それに口づけは愛情を注いでるんだよ。それより見ない顔だね。君誰かな？」
青年はそう言うと、郁の方へ歩みを進める。
「あ、はじめまして。狗塚郁と言います」
「…はじめまして、ユヅルです。君何歳？」
「郁くんは２４歳だよ。夕凪ちゃんと契約してからは幼くなっちゃってるけどね」
リリィが郁の代わりに答えた。
「夕凪と契約したのか。驚いた夕凪が種族を創ったとはな…」
ユヅルは郁を見る。
「さっそくだけど脱いでくれる？」
「…はい？」
この男はいきなり何を言い出すかと思えば、郁に服を脱げと言い放った。
郁は理解が追い付かず、口をぱくぱくさせる。
「一度混血になった身体がどうな風になってるか興味があったんだ。純血の吸血鬼と何が異なっているか。身体が縮んだ影響とか能力とか色々調べて…」
「ひぃっ、や、やめてください！服を脱がそうとしないでください！近づかないでぇぇ！！」
ユヅルはぶつぶつ言いながら、郁との間を詰めていく。リリィに助けを求めるが可愛い笑顔を向けられるだけだった。
「ユヅル」
りんとした声が部屋内に響く。
「郁は嫌がってるんだ。これ以上ふざけるなら本気で怒るぞ」
夕凪は腰に下げている日本刀に手をかける。
「…流石にここで夕凪に暴れられたら困るな。僕も他の人に見られたくない秘密もあるさ」
「例えば、女性に興味がないとかね。ドールは例外として」
「うーん、そうだね。リリィにはあんまり興味は湧かないね」
「もう！ユヅルくんの意地悪！」
ぴりっとした空気がリリィのおかげで一瞬で変わり、郁はほっと胸をなでおろした。
「さて、郁くんだっけ？君は魔女は今も実在していると思う？」
「そりゃ、まだ信じられませんが、吸血鬼や人狼が存在しているなら魔女もいるんじゃないですか？」
「魔女には女しか生まれないのは知っている？」
「魔女って言ったらイメージに近いのは女性です。女性しか生まれないのは知りませんでした」
「僕は魔女の一族から生まれた忌み子なんだよ。自分で言うのは恥ずかしいけど一族の中では強力すぎるほど魔力を持ってる」
「すごいじゃないですか。一族の中でも最も力を持ってるってことですよね？」
「今は事情により魔力は半分以上抑えてるけどね。目キラキラしすぎだよ？あと近いね…」
「あ、すいません」
無意識に今度は郁の方がユヅルに接近していたらしい。
「そんなに近づいたら僕、郁くんのこと食べちゃうよ？色んな意味で」
「リリィ。僕の声真似しないで？僕を変態キャラに仕立てあげようとしないでくれないかな」
ユヅルはリリィの頬をつねると横に何回も引っ張る。
「僕が【ノアの箱舟】にいるのはある人物を見つける為に協力してるんだ。あとついでに一族の敵討ちも」
「敵討ちはついでなんですか…」
「僕、一族に嫌われてたからね。それくらい男が生まれるのは異例だったんだよ」
「…そう、なんですか」
どこか悲しそうな表情で話すユヅルに郁は言葉を濁す。
「さて、これからどうぞよろしく。僕はまだあの子の調整が終わってないんだ」
ユヅルはドールの少女に視線を移す。
「今回はどんなドールを作ったの？ユヅルくん」
「うーん、お楽しみ」
ユヅルはそうゆうと郁達を部屋の外へ案内する。扉を閉める前ににこっと笑い「今度はノックしてから入ってね」と言って扉を閉めた。
「…ユヅルは普段はドールに少量の魔力を入れて動かしてるの。魔力を最大まで出したところは私たちも一度しか見たことない」
「ユヅルくんはあんまり戦闘には参戦しないからね。ぶっちゃけ待機組なの」
「そうなんだ…。なんかつかめそうでつかめない人だね。ユヅルさん」
「ユヅルは創設時からいるメンバーだからな…昔からあんな感じだよ。あの男は」

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「やだやだ、上層部めんどくさいよー」
ラヴィの部屋に戻るとラヴィは床に寝転がっていた。
夕凪は呆れたようにラヴィに近付き、起き上がらせた。
「ラヴィさん、子供じゃないんですから床に転がらないでくださいよ」
「んー、ワンコくん。ユヅルに会ってきたんでしょ？どうだったうまくやってけそう？」
「はい。その、ここにいるのは夕凪ちゃんとリリィとユヅルさんだけなんですか？もっと大人数だと思ってました」
「他にも何人かいるけど、大体は上層部の人達かな。ノアの箱舟の第２支部はこの５人だけだよ。」
「第２支部って他にもいるってことですか？」
「一応は5支部はあったんだけど、その中の２つの支部は壊滅。今残ってるのはこの第２支部。上層部がいる第１支部。で、西には第５支部がある」
「私、第1支部は嫌い。ただ座って偉そうにしてるだけじゃん…」
リリィはそっぽを向きながら、つぶやく。
「リリィ。そんなこと言ったらうちの支部のお金減らされちゃうから上層部の前では言わないでね。まぁ、私も上層部嫌いだけども。あー上層部めんどくさーい！ 」
ラヴィはそうゆうとまた床を寝転び始め、夕凪は諦めたようにため息をつく。
「…それで、ラヴィさん。上層部に行ってなに言われたんですか」
「上層部の備品庫から一つ備品がなくなったので、そっちの泥棒狼をしっかりしつけなさい、と」
「う、んん～、何のことかな～？」
「無断で一般人と契約を結び、報告もなしとはどうゆうことだ、と」
「それって、ラヴィさんが伝え忘れただけですよね」
「うん。すっかり忘れてた。速攻謝った」
「…アルカナについては？何か言ってましたか」
「早急にデッドを殲滅し、アルカナの息の根を止めろってさ。早速だけど三人にある場所に向かってほしい。デッドの目撃情報が入った」
「場所は？デッドの特徴は」
「場所は某大学。それが変わったデッドらしい」
「変わったデッド？」
「喰べないんだよ。ターゲットが決まっているのに」
「は…？」
「ターゲットになっている人間もまたそいつがデッドだと知っている」
郁は身を乗り出し、声を張る。
「ちょっと、待ってくださいよ。どうゆうことですか？その人はデッドを恐れてないってことですか？！」
「とりあえず、その人間の安全を第一に考え、場合によってはそのデッドをその人間の前で殺せってことらしい」
「…そんなのわかってる。その人間の記憶は上層部の方で塗り変えてくれるんですよねラヴィさん？」
「現場には上層部の下っ端もいるらしいから、その人達が対処するよ。頼んだよ三人とも」
郁は理解ができなかった。郁にとってはデッドは恐怖の対象倒すべき相手なのだ。どんな事情があってもデッドはただの人食いの化物だ。と考えていた。
「場合によっては、その人間を盾にする可能性もある。接近戦を得意としてる私やリリィには不利だ。郁頼むぞ」
夕凪は郁の肩に手を置き、言った。 ]]>
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		<title>04.hatred（憎悪）</title>

		<description>今は大手製薬会社として世間に名が知れて…</description>
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			<![CDATA[ 今は大手製薬会社として世間に名が知れている【宮下製薬会社】が経営を始めた場所がこの工場からだったのだと言われている。当時はこの小さな工場で少人数で経営していたらしいが会社の名前が大きくなるにつれ、事業所を新しく建て直しこの場所は使われなくなった。
門の前で見上げると、木や雑草が鬱蒼と生い茂っている。空に曇り風が出てきて、木々がざわざわと揺れている。門には鍵がかかっておらず、手で押すとなんなく開いた。
「お邪魔します～」
リリィは小声で言い、中に入ってゆく。後を追って夕凪、そして郁も足を踏み出した。
窓ガラスは粉々に割れており、残置されているカーテンは半分だけずり落ちていた。
「あのドア」
夕凪は階段の裏側にドアがついているのを見つけつぶやいた。
階段の幅から察するに、物置ではないかと考えた。
夕凪がノブをドアが開いた。地下に向かって階段が続いている。底の方は暗くてよく見えない。まるで底なし沼のように冷たい空気が皮膚に纏わりつく。
明かりがないため、手で壁を確かめながら歩みを進めていく。ふと、先頭歩くリリィが歩みを止めた。
「…微かだけど血の匂いがする」
さらに下りていくと突き当りに重たそうなドアが見え、下りていくにつれ匂いが郁でもわかるくらいになってきた。
「血は好物でも、この匂いは嫌いね」
夕凪はそうつぶやくと、リリィに「あれ持ってきた？」と言った。
「OK！ちゃんと持ってきてるよ～！」
そう言うと次の瞬間、服のファスナーに手をかける。
「肌身離さずって言われたから、服の中に入れておいたの～、でも動いてたらどんどん下の方にいっちゃってね…」
今回のリリィの服装はライダースーツだった。郁は目のやり場に困り、目を瞑りそっぽを向いた。
「やばいな、全部脱がないと取れないかも～！夕凪ちゃんどうしよ～」
「じゃあ、脱げばいいじゃない」
「いやいや、さすがにこの場は駄目でしょう？俺一応…男なんですけど」
「…何を想像してんだか。変態。こんな暗闇でリリィの裸体が見えるわけないでしょうが。見えたらラッキー程度に思ってればいいのよ」
「夕凪ちゃんが言うなら、全部脱いじゃおう」
ジジジッとファスナーの音がする。
「…ん、あ、服が肌に張り付いててうまく脱げないな～…あんっ、ファスナー胸のあたりで引っかかっちゃったよ～」
「…めんどくさいから、刀で服切り裂いていい？」
「ひゃっ、冷たい…ん、あ…っ　あ、取れた取れた！それじゃあ、垂らすね～床でいいかな？」
「ごめ、夕凪ちゃん。リリィは何を垂らすんでしょうか…？」
「ああ、部屋が暗いと見つけられるモノを見落とすかもでしょう。だから液体を他の固体に垂らすと垂らした場所が発光して明るくなる物質リリィに持ってきてもらったの」
「ってことはラッキー通り越して、リリィの裸体を見られる…っ見てしまうってことですよね？ちょ、まってリリィ！俺準備がまだ！！」
ぽたっ、
リリィはコンクリートの床に液体を垂らした。垂らした場所からみるみるうちに光明るくなが広がっていく
明るくなるにつれ、リリィが視界に映り出す。リリィは裸体ではなく薄ピンクの下着姿になっていた。
「…リリィ、とりあえず俺の上着羽織ってください」
「えー、下着姿の方が動きやすい、「お願いします」
「…はーい」
「鼻血拭け、変態」
夕凪はそっと、ティッシュを郁に差し出した。
リリィ、Gカップでした。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

ギギギー…ッ、鈍い音を立てながらドアが開く。生ぬるい熱気と血なまぐさい匂いがし、郁は手で鼻を覆う。
「１人や２人程度じゃないな…リリィ」
「はいはーい」
リリィは先ほどの発光する液体をばら撒く。ばら撒かれた場所からどんどん明るくなって部屋の全体が見えてきた。
「なんだよ、あれ」
視界に映ったものは少女たちの死体の山だった。
周りには大量注射器がばら撒かれ、部屋の奥には手足を固定する器具や手術台が置いてあった。
「死体の腐敗具合からして、一番古くて２、３前か…郁？」
「…夕凪ちゃん、変なこと言ってもいいかな」
「手短に」
「…腐敗してる人はわからないけど、みんな同じ顔なんだ。襲ってきたデッドに」
「…鹿山真由」

「お嬢さん方はどこから入ってきたのかな？」
後ろのドアがバタンと大きな音をたて、閉まった。
入口の方からスーツに身を包んだ３０代後半の女が近づいてくる。その顔には覚えがあった。
「宮下製薬会社　代表取締役の宮下智尋（ミヤシタ　チヒロ）さん。なぜここに貴女が？」
「男には興味ないの。話しかけないでちょうだい」
宮下は怪訝そうに郁を見て、言い放った。
「…お前、人間か…？」
「…あら、なんで疑問形なのかしら？私はちゃんとした人間よ？」
かつんかつん、とヒールの音を立てながら宮下が近づいてくる。
リリィが夕凪の前に立つと、宮下も歩みを止めた。
「あら、そんなに怖い顔しないでちょうだいよ。可愛い顔が台無しじゃない？」
郁からはリリィの表情が見えない。
「私は元々研究員でね、会社も大きくなってトップになってもよく他の研究員に隠れてここで人体研究していたものだよ」
「生命は常に進化し続けている。脳の活動制限だってもしかしたら１０パーセント以上を引き出せる人間が作れるかもしれないと、そう思ったんだよ…」
人体実験はモルモットから人間へ、自分の娘へと変わっていった。そう、宮下はつぶやいた。
「真由は、再婚した男の連れ子だったわ。あの子が言うのお母さんの役に立ちたいからなんでもするよって何も考えてない無邪気な顔で」
「…仮にも自分の娘だろ？なんでそんなことができるんだ！？そんなのただの虐待だ」
「所有物だからよ。実験をしたモルモットと一緒よ」
宮下の志向が理解できない郁はただ拳を握り、怒りを抑えるしかなかった。
「…話にならないな。悪いがお前の歪んだ志向には興味ないんだよ。ただの人間がデッドの知識をどこで手に入れたか知らんが、」
夕凪は腰の刀に手をかける。
「拘束して洗いざらい吐いてもらう」
「拘束されるのはお嬢さんあんたたちだよ。真由！」
次の瞬間、後ろを見ると少女が郁たちの腕を拘束していた。死体の山に生存者がまぎれ混んでいたのかもしれない。
「あの日、この研究室に神父服に身を包んだ人たちが訪れた。最初はびっくりしたよこの場所は私しか知らないからね。
その者たちは私の志向を理解してくれたよ。そして一瓶の薬を置いていった。その薬を真由に飲ませたら、何が起こったと思う？」
人間は生命の危機を感じると、生を残すため子孫を残す。だが、真由は細胞を分裂させ自分のコピーを作りだした。
大量のコピーを作り出した真由は息絶え死んだという。
「何人か体をいじっては息絶えていったよ。たとえば餓死状態にしてお互いを喰わせあったりね。お嬢さん達も我が子（モルモット）のもっと強い進化のために栄養源になってはくれないかな？」
「…強い進化のために犠牲になれと？笑わせないでくださいよ」
次の瞬間真由達が拘束していた腕が血しぶきをあげ床に落ちる。血しぶきが少しだけ頬に当たる。
そしてリリィは宮下の腹に拳を食い込ませる。骨が軋むいやな音がし、宮下が血を吐き膝をつく。
「…私貴方と同じ人知ってます。私その人を殺したんです。でも忘れられないくらい憎いんです」
リリィは宮下に拳をあげ、振り落とす。
「リリィ！！」
夕凪が声をあげると、拳は宙で止まる。
「落ち着け。そいつにはまだ聞きたいことがあるんだ」

「…そうだね、ごめん」
リリィは宮下を起き上がらせると後ろから腕を拘束する。
「痛いね…、そんなことしなくても逃げないさ。動いたら骨が臓器に刺さりそうだからね」
「郁。もうそいつらには拘束する力は残ってないらしいぞ」
「え、あっ、そう？」
夕凪に言われて見れば拘束する少女の力が弱まっている気がした。
「リリィが飛ばした真由の血に私の血を多少混ぜた。細胞に侵入して内部から破壊したからな。そいつらは多分あと数分で死ぬんじゃないか？」
夕凪は服のほこりを払うと宮下の目の前に立つ。
「さっき、神父服の集団がここに来たって言ってたたな。そいつらが置いていった薬はどこだ？全部使ってるわけがないよな？」
「ふ、なんでそんなことお嬢さん達に教える必要があるのかな？」
宮下は後ろで拘束されているにも関わらず、余裕のある表情で夕凪を見る。
「…仕方ないな。それなら直接理解するまでだ」
夕凪は髪をかき上げ、宮下の首筋に顔を近づける。そしを包み込むようにかぶりついた。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「…まっずい」
夕凪は首筋から顔を離すと口を押えつぶやいた。
「…真由のオリジナルは本当に死んだのか？」
夕凪は虚ろな目をしている宮下に問いかける。
「…ICチップを埋め込んだ奴はいない。それなら誰がICチップを埋め込んだ？なんで一人だけ観察対象になった？そんな記憶この女には入ってない」
「それは、私が彼女の記憶を少々いじらせていただいたからかと」
いつの間にか郁の隣にはシスター服に身を包んだ１０代くらいの少女が立っていた。
「お初にお目にかかります【ノアの箱舟】様。私は藍と申します」
眼鏡の奥の瞳は冷たく、郁は後ずさった。
「夕凪様が彼女から吸い取った記憶通り、今の彼女には偽の記憶を入れています。」
夕凪は腕を組み藍と名乗る少女を見る。
「どうゆうことか説明してもらおうじゃない」
「そうですね、とりあえず彼女はもう要りませんよね」
そう言うと、宮下は次の瞬間苦しみだす。

「彼女の体内に神経毒を入れました。体中がしびれだして時間がたてば心臓が停止します」
宮下は少しずつ動きがなくなり、遂にはぴくりとも動かなくなった。
「さて、彼女が娘の真由に薬を飲ませたところまでは本当です。真由は副作用で人格をなくしてしまったので別人格データをこのICチップに入れました。自分は研究室で生まれて人体を弄ばれた挙句、研究員の監視下に置かれ生活しているというオプションをつけて外に出しました。まあ、それはあなた方に倒されたデッドなんですが」
「…真由の細胞を使って何匹かデッドを作ったのか？それがこの死体だっていうならわからなくもない」
夕凪は真由達の死体の山に目を向けるとそうつぶやいた。
「ご名答です。医学等の知識がなかった為、彼女（宮下）には働いてもらいました。ですがどうも彼女の志向が歪んでいたもので、全滅しましたけど…」
「…目的はなんだ？なんで大量のデッドを作り出そうとした」
「…それは教えられません。言う必要はないかと」
「情報を漏えいしないよう口止めでもされているのか。何をしようとしてるんだお前ら…?」
リリィは拳を構え、少女に向かって距離を縮める。しかし少女は袖の下からカードを取り出すと、突然少女と夕凪たちの間に水の壁がはだかる。
「…今はウルフと手合わせする気はうちらにはないんでね。ここは引かせていただきますよ」
少女は宮下の死体を担ぎ姿を消すと、するとみるみるうちに水がはけていく。
「夕凪ちゃん、ごめん逃がした」
「簡単には捕まらないのは分かっていたし、今回はしょうがないだろ」
夕凪はため息をつくと、スマホをいじり耳にあてた。
「…あ、ラヴィさん？やっぱりあいつらが絡んでた。うん、あいつらが宮下智尋に渡したっていう薬だけど宮下の自室の戸棚に入ってる。回収と分析お願いします」
夕凪は電話を切るのを確認し郁は口を開いた。
「…あいつらって誰だよ。敵はあの化物じゃないのか？あの女の子どう見ても化物には…！」
「私たちをよく思ってない奴らもいるってことだ。あの少女も多分その一人だろうな初めて会ったが」
「あの子以外にも何人かいるってことかよ・・・」
郁は手のひらに嫌な汗を感じた。
「詳しいことは薬の分析が終わってからだ。帰るか」
すたすたと出口に向かう夕凪を追いかけ、郁達も出口に向かう。
「そういえば、ウルフって聞こえたけどさウルフなんてどこにも…」
「それ私だよ。私人狼なんだ。…郁くんさっきはごめんね」
「え」
「私さっき感情が制御できなくて、周り見えなくなっちゃうんだ。恥ずかしいところ見せてごめんさい」
リリィは困ったように笑う。郁は思わず言葉に詰まる。リリィの過去に何があったのかは知らない。ましては今の自分にはどう言葉に表せばよいか迷っていた。
「俺は…今のリリィしか知らないから。今ここに一緒にいるリリィしか。それじゃ、駄目かな？」
「ううん。ありがとう郁くん。よーし、気を取り直してがんばろ～！」
リリィはそういうと夕凪に向かって小走りにかけていき、郁も後を追った。 ]]>
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